本研究の目的は、フランスにおける生殖補助医療を利用できる人の範囲がどのように構築されているか、そこに「子どもを持ちたいという欲望」がどのように関わっているかを明らかにすることである。生殖補助医療を規制する生命倫理法(1994年、2004年、2011年)および2013年の同性婚法をめぐる議会での議論を主な研究対象とした。これらの議論において「子どもを持ちたいという欲望」がどのように扱われているのか、フランス社会における「医療技術を用いて子どもを作ること」が許される人と許されない人の線引きがどのようになされているのかを検討した。 平成27年度は、26年度に引き続き議会資料を中心とする文献調査、生命倫理学会での口頭報告をおこなった。 男女のカップルが子どもを持ちたいという欲望を持つことについては、1988の生命倫理法草案においてすでに言及されていた。生命倫理法2011年改正時には、生命倫理全国国民会議などを契機として、同性カップルや独身者といった、それまで生殖補助医療の利用者として想定されてこなかった人々をふくめた「万人の子どもを持ちたいという欲望」について議論され、2011年まで生殖補助医療の目的とされていた「生殖補助医療とは親になりたいというカップルの要求に応えるためのものである」という一文が削除された。生殖補助医療の規制は、男女のカップルの子どもへの欲望が満たされない場合に医療技術を用いて応えるという構造が修正されたのである。独身者や同性カップルといった幅広い人々の子どもを持ちたいという欲望が認識されるようになり、医学的理由ではないが医学的な補助なしでは生殖できない社会的不妊への対応が求められる現状への対応として、生殖補助医療が医学的不妊に対する治療であり、子どもを持ちたいという欲望からは切り離したといえることがわかった。
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