観光立国への取り組みが進められる中、2020年の東京オリンピック開催を見すえ、わが国の観光政策に何ができるかという点が重要な課題となっている。本研究では先行モデルとされる2012年ロンドン五輪を対象として、「レガシー」研究の視点から、①開催地域へのレガシーの評価、および②観光政策への意義を明らかにし、2020年東京五輪開催に向けた観光政策・研究に寄与することをねらいとした。 第一に、レガシー概念の再検討を行った。19世紀末に誕生した近代五輪がオリンピズムや国威発揚の面から特徴づけられる一方、レガシー概念は商業主義や環境問題への対応を介し、21世紀グローバル世界に適応した現代型オリンピックの正当化の論理である点について考察・報告した。第二に、五輪開催地のストラトフォード地区の現地調査を行い、そこで浮上したロンドン東部再開発エリアの実態をもとに「集客都市」の観点から考察を進めた。1980年代のドックランド再開発から現在に至るロンドン東部再開発の文脈をふまえるとき、五輪開催のレガシーとして、それまで労働者・移民の閉鎖的コミュニティであった場所に「居住・ビジネス・集客」の三要素をあわせもつ開放的な都市空間が誕生したこと、またそれに「観光」の要素が寄与することの意義を考察した。第三に、当初のレガシー計画からのシフトとして、オリンピコポリスと呼ばれる文化・教育地区、ヒア・イーストと呼ばれるITデジタル産業の集積拠点、そしてITと金融の拠点として英国版シリコンバレーのテック・シティがロンドン東部エリアに誕生しつつあることを報告している。 以上のように成熟社会の五輪開催に向けて、ハードからソフトへという単純な構図ではなく、ハード・ソフト両面の効果をもつクリエイティブシティの観点から「社会的課題の解決」のためのオリンピック開催へと構想を再編していくことの可能性について考察と検討を重ねている。
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