本研究は、十九世紀後半のフランス哲学、主にベルクソンを対象に、自由の定義不可能性、道徳哲学それ自体の成立可能性、記憶の潜在性などの主題における自由論と自我論について調査・考察を行なった。それぞれ、ベルクソンにおいては、自由が定義不可能であるのは自由概念が還元不可能な最単純観念だからであること、行為者の自由を前提しないかぎり知性も自己意識も道徳的行為の成立要件ではないとベルクソンが考えていること、ベルクソンの言う「潜在的」は、修飾する語句に応じて、「可能な」と「意識に現前していない」という意味をもち、どちらの用法も、知覚論や精神の存在証明において重要な理論的役割をもつこと、を明らかにした。
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