本研究は、直観的な道徳判断に関する理論的研究である。とりわけ道徳直観の不安定性や可変性に関する最近の実証的知見が、道徳直観の作動原理にかんしてどのような含意を持つのかという道徳心理学の理論的問題に取り組むとともに、そうした知見や見解が道徳直観の規範的身分についてどのような含意を持つのかという道徳認識論的問題に取り組むことを目指している。 本年度は、この研究計画の基礎部分として、道徳的概念の適用に焦点を当て、実験哲学および社会心理学からの実証的知見を踏まえた理論的検討を行った。 第一に、道徳判断に対する感情・呈示順序・言語表現からの影響と、それによる道徳判断の信頼(不)可能性に関して考察を行い、その成果を口頭発表により報告した(日本哲学会第73回大会)。 第二に、規範的判断において生じるバイアス傾向と、それによる規範的判断の(不)合理性および知的(悪)徳に関して考察を行い、その成果を口頭発表により報告した(日本科学哲学会第47回大会)。 第三に、道徳判断の基礎となる中心的な諸概念として、意図性概念および自由意志概念に着目し、それらの適用の心理メカニズムについて理論的考察を行い、その成果を口頭発表により報告するとともに(科学基礎論学会秋の研究例会)、国際学術誌上の論文により発表した(Frontiers in Psychology)。また自由意志概念についての研究成果については、他に国内学術誌上の論文による発表も予定している。
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