本研究ではデイヴィッド・ヒュームの「徳」概念を再検討し、その内実と意義を解明した。成果は次の三点に要約できる。(1)懐疑論の破壊的帰結を認めつつその後もなお学問的探求を継続していくという『人間本性論』のいっけん不可思議な構成は、探求者・認識主体の性格特性としての「知的徳」にかんするヒュームの見解を踏まえることで初めて理解可能になる。この知的徳に訴えた懐疑論からの「恢復」というフェーズにおいては、(2)「好奇心」ならびに「野心」の情念が本質的な役割を果たしており、(3)「共感」を介した他者の評価の内面化というヒュームの道徳論のロジックが機能している。
|