2014年度は本研究課題の根幹にある、「差別の規範理論」に関して、英語圏の主要な議論をレビューし、論文としてまとめた。 とくに、差別の特段の悪を説明するための哲学的分析として、①被行為者のこうむる害の大きさに着目する「害ベース説」、②行為者の意図や動機に着目する「偏見・誤謬説」、③害の大きさとも行為者の偏見とも独立した、行為の歴史的文化的社会的意味に着目する「行為の意味説」の分類を精査し、③の意義を検討し、明らかにした。 次に、機会平等論による差別の理論化を試みる議論に関して、その問題点と限界を明らかにした(研究会にて報告)。 また、行為の意味説の基盤となる、規範理論として「尊重」や「関係性」を重視する「社会関係の平等論」に関して学会報告を行い、現在論文化の準備をしている(日本倫理学会)。 また、具体的な問題として、障害者や重度の難病者の置かれた状況に関して、消極的安楽死および出生前診断選択的中絶を擁護する議論を批判的に検討し、シンポジウムで報告した(記録は雑誌『支援』に掲載予定)。また、ヘイトスピーチと差別に関する概念的混乱を解きほぐして明確に差別論のなかにヘイトスピーチを位置づける報告を行った(「女性・戦争・人権」学会)。 上記研究の意義は、差別概念の明確化が社会的に極めて重要な課題である(あり続けてきた)ことを前提として、日本語圏における差別概念の哲学的解明の圧倒的な不十分さを埋めるための最初の第一歩になるという点である。
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