本年度は、本研究課題の最終年度にあたり、これまでの研究のとりまとめおよび公表を中心に行った。研究遂行に必要な書籍の購入を行なったほか、8月にフランスに海外出張を行い、現地で文献調査を行うとともに、主にフランス国立図書館において研究のとりまとめ作業を行なった。日本国内では、これまでの研究についての資料整理および論文執筆を行った。研究成果については、第一に、レヴィナスにとって最も重要な参照・批判先であるハイデガーについて、未公刊資料等の新資料を用いて解明をめざした論文を公刊した。この未公刊資料については、翻訳作業を進め、その一部を共訳のかたちで公刊した(『エマニュエル・レヴィナス著作集2:哲学コレージュ講演集』)。残りの第3巻についても、翻訳をほぼ完了しており、来年度に公刊を予定している。また、レヴィナス思想の要の一つである「ユダヤ性」の問題については、デリダによる当該問題を扱った著作『最後のユダヤ人』の翻訳を公刊し、解説を発表した。 本研究課題のもう一つのテーマである「ポスト・ヒューマン」をめぐる問題については、これに関わる現代の科学技術の哲学についてフォローした。その内容・成果としては、レヴィナスと同時代の20世紀ドイツの思想家らが重要だが、まずギュンター・アンダースについては原子爆弾についての倫理的考察に関する論考を『現代思想』を発表、ハンナ・アーレントについては科学技術振興機構においてベルギーにてアーレント思想を科学技術政策との関係で論じるニコル・ルワンドル氏との対話を行ない、ハンス・ヨーナスについては日本におけるヨーナス研究者より専門知識の教示を得た。また、日本の科学研究の現状については池内了氏に講演をしていただき、専門知識の教示を得た。これらの成果の一部はフランス専門誌にて仏語論文を公刊した。
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