前年度に引き続き、フランス現象学の具体的な展開可能性を探るために、主として真理論、身体論、倫理学の分野で研究を遂行した。そのために、様々な分野の専門的研究者を招いたワークショップを開催するなどして、最新の研究成果に触れたり、情報交換や意見交換に努めたりするとともに、現象学的分析の成果を他分野の研究者にも伝わる形で発表することを試みた。 具体的には、まず他人との対話に基づくレヴィナスの真理論を現代の真理論との関連でより掘り下げて考察したものを上海の現象学研究会で発表した。次に、レヴィナスの身体論をフェミニスト現象学や現代のフェミニズム理論と関連づけて韓国で発表した。そこで問題として浮かび上がった性差別について、現象学的な差別論の可能性を模索し、日本倫理学会ワークショップ「性差別と倫理」の提題を現象学的観点から行った。第三に、レヴィナスの親子論を現代倫理学における家族論の文脈のなかで位置づけ直し、家族の現象学の可能性を模索し、傷つきやすさと有限性の現象学第1回研究会および日本現象学会のワークショップで発表した。第四に、レヴィナスの倫理学の具体的意義をグローバル・ジャスティスとの関連において検討し、トゥールーズで開催された国際レヴィナス学会で発表した。以上の検討を通じて、フランス現象学の展開可能性が、対話に基づく真理論、現象学的身体論に基づく性差論、現象学的倫理学という諸側面から明らかにされた。
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