研究課題/領域番号 |
26770017
|
研究機関 | 関西大学 |
研究代表者 |
松元 雅和 関西大学, 政策創造学部, 准教授 (00528929)
|
研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2016-03-31
|
キーワード | 方法論 / 非理想理論 / 戦争倫理学 |
研究実績の概要 |
本研究の目的は、〈非理想理論〉に基づく倫理学・政治哲学において、新たに要請される正義論の方法論上の特質を、従来の〈理想理論〉との対比から解明することである。26年度は、非理想状況がもたらす諸制約の解明に従事し、思考実験の方法を非理想状況に適用する際の問題を特定した。その成果として、1)「現実主義/平和主義理論における理想と現実」『平和研究』第43号(2014年10月)、69-89頁では、安全保障構想における理想化の水準を区別し、〈非理想理論〉においては(「経済人」に類比される)国家意思の単一性や合理性といった理論的仮定の水準を下げざるをえないことを明らかにした。2)"On the Durability of Utilitarianism as a Political Theory," International Society for Utilitarian Studies, 13th Conference (Yokohama National University, 21 August 2014)では、功利主義の抽象的・説明的価値を高めることが具体的な意思決定手続きの場面で実行不可能な要求にならざるをえないことを明らかにした。3)「兵士の道徳的平等性に関する一考察」『法と哲学』第1号(2015年5月予定)では、思考実験を伴う哲学的分析を通じたJ. McMahanら修正派正戦論の結論が法規範や法実践の場面と背理しうることを論じた。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
本研究は、〈理想理論〉〈非理想理論〉の構造的差異を把握したうえで、〈非理想理論〉としての正義論の展開にあたりどのような方法が適切かを、体系的ならびに個別的に検証することを目的とする。そのために26年度では、主として非理想状況がもたらす諸制約の解明に従事した。その結果、第一に、環境を統制し、現実には充足不可能な条件を設定する理想化の手続きが、〈理想理論〉を構築するうえで移行の参照点としての方法論的意義をもつこと、第二に、終局状態の記述か、過渡期の記述かという理論化の役割に応じて、〈非理想理論〉の構築においては理想化の水準を下げざるをえないこと、第三に、個々の安全保障構想の提案にあたっては、以上の両方の成果を踏まえた重層的な理論構成が必要であることを明らかにした。これらの研究成果は、非理想状況下で「応用」することを念頭に置いた場合、正義論の展開にどのような修正が迫られるかという方法論的諸問題について指針となるものであり、本研究課題の期間内の完遂に向けた重要な知見である。また、これらの成果が査読を経たうえ国内の指導的な学会誌に掲載され、国際会議において公表できたことも大きな収穫であった。
|
今後の研究の推進方策 |
27年度の課題は、26年度に引き続き非理想状況がもたらす諸制約の解明を継続しながら、方法としての思考実験の再構築に段階的に着手することである。具体的には、〈非理想理論〉における実行可能性問題を〈理想理論〉との対比から検討し、思考実験に伴う抽象化/理想化の水準を区別し、理論化に向けた有効性を検証する。研究の実施にあたっては、現代英米圏の戦争倫理学や規範的公共政策分析を分析対象として取り上げる。なお本研究成果の一部は、日本公共政策学会、日本平和学会において報告予定であるほか、12th Annual International Conference on Politics & International Affairs (Athens, Greece)において国際会議発表を予定している。
|
次年度使用額が生じた理由 |
少額の端数であり図書購入ができなかったため、次年度に繰り越した。
|
次年度使用額の使用計画 |
繰越金も含めた27年度請求額のうち、30万円は国際会議発表旅費(大阪-ギリシア)および資料収集旅費(大阪-東京)に使用し、7万円は複写費・英語論文校閲費に使用する。残額は図書資料購入費・PC関連消耗品・資料整理用文具等の消耗品費に使用する。
|