最終年度にあたる平成29年度は、「研究成果の報告と公開」との位置づけを与え、前年度までの研究で明らかになった内容とそれらの応用実践例をまとめ、論文や口頭発表のかたちで公開した。
1. 技術者の環境配慮義務を、従来の工学倫理の視点のみをもって正確に把握することは難しい。工学倫理において技術者の環境配慮義務は、予防倫理的観点から語られることが多い。予防倫理とは、事件や事故の発生を予防するための能力あるいは態度を指す。専門職倫理としてのルーツをもつ工学倫理が、分野としての成立当初から一貫して重視してきた概念である。しかしながら、予防倫理は事件や事故を予防することを最重要視するがゆえに、「すべきこと」よりも「すべきではないこと」に焦点があてられ、その結果、特定の行為を禁ずる言明を多く含むことになる。したがって予防倫理は、環境衛生のような問題領域、すなわち衛生状況の改善のようなある種「望ましい」目的をもった環境改変の是非について、具体的な判断を示すことが困難である。換言すれば、工学倫理における「環境」概念は、多くの場合予防倫理的側面のみから、限定されたかたちで捉えられている可能性がある。こうした可能性について、口頭発表を行った。 2. 研究代表者は、上記のような「公衆衛生の維持向上の一環としての自然環境改変はどこまで許容されるか」といった問題構造を「公衆衛生と環境保全の相反」と題して、これまで各所で問題提起を行ってきた。今年度は、代表的事例として調査を進めてきた日本住血吸虫病対策事業に加え、不妊虫放飼法を用いた特定種の根絶事例や、ゲノム編集技術の応用形態のひとつとしての遺伝子ドライブを利用した衛生動物・昆虫の根絶事例等についてサーベイを行い、結果の一部を口頭で発表した。 3. 日本住血吸虫病対策事業を教材として用いた倫理教育カリキュラムに、一定の教育効果が見られたことを発表した。
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