研究課題/領域番号 |
26770021
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
石田 尚敬 東京大学, 人文社会系研究科, 研究員 (80712570)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | インド仏教 / 仏教論理学 / モークシャーカラグプタ / ダルマキールティ / サンスクリット |
研究実績の概要 |
平成26年度は、研究計画の初年度にあたり、モークシャーカラグプタ(13世紀頃)著『論理の言葉』(タルカバーシャー)について、これまで蒐集した写本(計7本)を解読し、サンスクリット語原典の批判校訂を行った。その成果から、日本印度学仏教学会第65回学術大会において発表し、『論理の言葉』の原典写本について、特にパタン写本(計2本)とバローダ写本(計4本)との関係を明らかにした。 また、上記『論理の言葉』と同時に研究対象にしているダルマキールティ(法称、7世紀頃)著『論理の雫』(ニヤーヤ・ビンドゥ)についても、上記『論理の言葉』が2次的に利用している箇所を特定し、パラレルの文章を収集した。 ダルマキールティやモークシャーカラグプタの属する仏教認識論・論理学派の思想史研究においては、同派の知覚論の枠内で扱われる「ヨーギン(瞑想者)の知覚」について、モークシャーカラグプタがダルマキールティの記述に基づきつつ、大乗仏教思想の伝統において重視される「智慧」(プラジュニャー)として位置づけようとしている点を、バウッダコーシャ・プロジェクト第2回公開シンポジウム「仏教用語の今昔-翻訳はいかにして可能か-」にて論じた。 また、科学研究費補助金を用いて、国際仏教学会(IABS)および第5回国際ダルマキールティ学会といった国際学会に参加し、仏教認識論・論理学の思想展開について発表を行うとともに、国内外の研究者と情報交換をし、海外の研究動向について知見を得た。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
モークシャーカラグプタ著『論理の言葉』(タルカバーシャー)については、懸案であったカンナダ文字で書写されたマイソール写本の解読が可能となったほか、ナーガリー文字で書写されたパタン写本(2本)およびバローダ写本(4本)の解読も予定通り進められた。これらにより、『論理の言葉』のサンスクリット語原典テキストの批判校訂および解読は、計画期間内での達成が見込まれることとなった。 また、上記『論理の言葉』が内容上大きく依存するダルマキールティ著『論理の雫』(ニヤーヤ・ビンドゥ)についても、『論理の言葉』が二次的に利用している箇所を特定し、パラレルの文章を収集したほか、議論内容の比較も行うことができた。 さらに、上記両著を視野に入れた思想史研究は、両テキスト全体の解読を待って行う予定であったが、第1章の知覚論で論じられる「ヨーギンの知覚」について、モークシャーカラグプタがダルマキールティの定義を単に踏襲しているだけではなく、仏教思想において伝統的に論じられる「智慧」としても位置付けようとしていることを明らかにし、国内シンポジウムで指摘することができた。その点で当初の計画以上に進展したと言える。
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今後の研究の推進方策 |
これまでモークシャーカラグプタ著『論理の言葉』(タルカバーシャー)について、サンスクリット語原典写本を用いた批判校訂を行ってきたが、今後は同著のチベット語訳テキストについても再校訂を行い、資料環境を整備する。 さらに、ダルマキールティ著『論理の雫』についても、これまで収集した原典写本およびチベット語訳を用いて解読し、再校訂を行うこととする。 さらに、『論理の言葉』および『論理の雫』を対象として、仏教認識論・論理学派の主要な術語とその用例を収集することで、他の研究者にも参照可能な術語集を作成する。 また、平成26年度は国際仏教学会(IABS)や第5回国際ダルマキールティ学会などで研究成果の発表を行ったが、次年度以降に論文の形で公表することとしたい。 平成27年度は、共同発表を含む複数の国内学会で発表を予定しており、仏教認識論・論理学派の思想展開について、これまでの研究成果を公表する。
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備考 |
斎藤明教授が研究代表者を務める科学研究費プロジェクト(基盤(S)研究課題番号:23222001)のホームページ
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