本研究では、従来十分に明らかでなかった室町時代の南都仏教、とくに華厳宗における教学の実態について、東大寺戒壇院長老であった普一志玉の資料(智積院蔵『五教章聞書』六帖、真福寺蔵『華厳五教章視聴記』六帖)を検出・翻刻し、その思想内容について分析を行った。 その結果、志玉は根来寺・真福寺などに拠点をもつ複数の真言僧と交流をもち、彼らによって志玉の『華厳五教章』講説が記録・伝持されていった点、また思想的には密教説の導入が顕著にみられるとともに、室町期までの日本華厳の系統を整理し、その教学を整理する意図がうかがえる点など、従来未詳であった華厳学の実態について新たな知見を得ることができた。
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