研究課題/領域番号 |
26770027
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研究機関 | 神戸市外国語大学 |
研究代表者 |
小布施 祈恵子 神戸市外国語大学, 外国語学研究科, 研究員 (90719270)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | イスラーム / 布教 / 日本文化 / 土着化 / 改宗 |
研究実績の概要 |
平成26年度の研究の目的は日本イスラム教団の設立の経緯・発展および衰退の経緯とその活動内容の解明、そして現在の日本におけるイスラーム布教の方向性の解明の一環として、国内のムスリム・コミュニティの指導者的存在である人々が教団の活動をどのように理解しているかを調査することであった。その結果、以下の点が判明した。 日本人ムスリム指導者の日本イスラム教団に関する評価はおしなべて否定的であり、特に教団について直接の知識を持っている年配(50-70歳代)の日本人ムスリムは教団の意図・姿勢に強い疑念を抱いていることが多い。具体的には、教団の目的は金儲けであり、そのために中東・東南アジアのイスラム諸国とのつながりを求めたのではないか、また教団の布教内容が本来のイスラームの教えからはずれており、日本にイスラームを根付かせる方法として筋違いである、といった意見があがった。ただ後者についての具体的な指摘はあまりなく、政治的活動をも含む教団の大がかりな活動内容に対する違和感の表明が多かった。教団の存在は日本のイスラームの歴史における「恥」だと思っているので言及を避けているという声もあった。 これに対して、教団の中核的メンバーであった外国人ムスリムは二木の意図は「金儲け」ではなかったと主張し、教団の布教方法の正当性を強調した。具体的には、入信のための信仰告白(シャハーダ、特に神を信じること)に重点がおかれるべきこと、服装や食に関する規定は2次的なものであり、暫時的に実践してゆけばよいこと、そしてこのような布教方法が預言者ムハンマドのそれに通じるものであること、が強調された。日本イスラム教団を通じてイスラームに入信した人の数を特定することは難しく、教団側での水増しが指摘されることも多いが、入信過程のこのような簡素化は、教団が短期間で多くの信者を得ることができた重要な理由のひとつであると考えられる。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
平成26年度の主な研究調査の対象は、「日本イスラム教団の設立・発展および衰退の経緯」、および「教団の主な布教内容」であった。このうち前者については、教団に関してこれまでに出版された文献を大方確認し、教団の発展の大まかな流れをつかむことができ。教団の活動内容については、文献調査に加え聞き取り調査を行ったことによって、これまでに明らかにされていない教団の活動に関する情報を得ることができた。特に元教団のメンバーである外国人ムスリムからは、教団内部で使われていた資料の提供、および布教内容についても教団の方針についての説明を受けた。現在これらの情報を文献調査によって得た情報と照らし合わせて、確認しつつ、教団の標榜していた「大乗イスラーム」の布教内容を解明する作業を進めているところである。 また、平成27年度以降に調査を行う予定である日本における「イスラーム土着化の可能性」についても、現在の日本のムスリム・コミュニティで代表的指導者とみなされている日本人ムスリムへの聞き取りおよびモスクでの活動への参与観察を通して、日本における布教に付随する問題及び工夫している点についての基本的な情報を得た。さらにここでは日本人ムスリム指導者の間においても、日本イスラム教団のとったような規則にこだわらない「大乗的」イスラーム実践への評価、またイスラームを日本に根付かせるために必要な「日本化(土着化)」の程度と内容に関する意見は一様ではないことが明らかになった。
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今後の研究の推進方策 |
平成27年度以降も、基本的には研究計画内容にそって「日本イスラム教団の設立・発展および衰退の経緯」「日本イスラム教団の布教内容とイスラーム土着化の可能性」「日本のイスラーム受容史における日本イスラム教団の位置」を順を追いながら並行して調査してゆく。 平成27年度は教団の活動内容、特に布教内容について重点的に調査し、「大乗イスラーム」の具体的な内容についての解明をすすめる。このために、さらに詳細なる文献調査に加えて、現時点でコンタクトが確立している教団メンバーの外国人ムスリムの協力を得て、元教団関係者への聞き取りを可能な限り行うことを予定している。また前項で述べたように、日本における「イスラーム土着の可能性」についても、現在の日本のムスリム・コミュニティで指導者的役割を担っているムスリムの方々への聞き取りと、代表的なモスクやイスラーム団体が開催するイベントへの参与観察を通して、情報の収集と現在の動向の考察をすすめてゆく。 研究を遂行する上での課題としては、日本イスラム教団が20年以上前に実質的活動を停止していることと、これまでに聞き取りを行った範囲では教団の活動に対して否定的な印象を持っている日本人ムスリムが多く、中には情報提供をためらうインフォーマントもいることから、聞き取り調査には一定の限界があることがあげられる。このため、聞き取り調査の際に研究の内容および意図を説明するだけではなく、研究者のこれまでの経歴やイスラームに対する考えなどを表明し、インフォーマントとの一定の信頼関係を築きながら聞き取りを行うという方法をとる。
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次年度使用額が生じた理由 |
次年度使用額が生じた主たる理由は、海外学会における研究の中間報告を行わなかったことである。これは研究調査の不履行によるものではなく、海外での学会発表(英国宗教学会)を行うのに必要な調査を関連学会開催(9月)までに行うことが不可能だったことによる。 今年度の主なフィールド調査は7-8月と12月の2回にわたって行った。これらの調査の結果は次年度にドイツで行われる国際宗教史学会世界大会にて行うことが確定している。
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次年度使用額の使用計画 |
前項で述べたように、今年度中に発表できなかった研究の成果は、次年度にドイツで行われる国際宗教史学会世界大会にて行うことが確定している。この他、他の学会またはセミナーでの発表の予定を現在調整中である。
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