研究課題/領域番号 |
26770029
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研究機関 | 南山大学 |
研究代表者 |
永岡 崇 南山大学, 南山宗教文化研究所, 研究員 (30725297)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | 民衆宗教 / 総力戦 / 占領 / 知識人 |
研究実績の概要 |
本年度は、1940年代の民衆宗教についての具体的な調査に先立ち、(1)同時代の大規模な民衆宗教運動(天理教・金光教など)の状況をめぐる検討を行うとともに、(2)1940年代の群小の民衆宗教をめぐる言説を批判的に検討して、従来の研究や批評が、それらの宗教のどのような部分に着目し、逆にどのような部分を見落としたのかを考察した。 (1)については、天理教や金光教などが戦時体制への協力姿勢を強めるなかで、それまで現世利益を求めてそれらの宗教に集まっていた人びとを救済の対象から外していったということを明らかにした。その傾向は敗戦後にも継続し、教義や組織の復興に注力していた既成の民衆宗教教団は、民衆の救済欲求に充分応じることはできなかったと考えられる。そのことをふまえれば、総力戦体制や戦後復興体制の外部や周縁に位置する人びとの宗教的欲求がどこに向かっていったのか、という点が重要な問題となってくるだろう。 (2)については、同時代およびその後の知識人たちが、敗戦直後に現れた群小の宗教について、その思想性の欠如や詐欺的性格を非難していた一方で、それらの宗教が担おうとしていた現世利益的救済の可能性をうまく扱うことができなかったこと、また他方では、民主国日本のひとつの可能性を示すものとして評価しようとするジャーナリストも少数ながら存在したことを確認することができた。 これらの作業は、1940年代における民衆宗教がどのような社会的・文化的環境のなかで生まれ、またどのような観点から評価されてきたのかを浮き彫りにするものであり、次年度以降の調査の宗教史的位置づけを定めるうえで重要な意味をもつものである。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究では、1940年代の民衆宗教の実態を把握するとともに、その宗教史的な意義を明らかにすることを目指している。初年度の作業は、当時の宗教的・社会的環境における、それらの民衆宗教の位置づけを明確化するものであった。つまり、天理教や金光教など、先行する民衆宗教運動が総力戦期および占領期にどのように変容していったのか、また戦後知識人が「宗教」に何を求め、どのように評価していたのかを分析することにより、新しい民衆宗教の発生がもつ独自の意味を浮き彫りにしようとしたのである。 今年度の作業により、その目的は一定の成果をあげたといえるが、戦後知識人の民衆宗教観については、学会発表や論文発表などの形で公表するまでに至らず、次年度以降の課題として残されている。
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今後の研究の推進方策 |
次年度は、まず本年度の調査をふまえて、戦後知識人の民衆宗教観について「宗教と社会」学会で発表する。 また、1940年代の民衆宗教の実態について、本格的な調査に着手する。(1)民衆宗教の目録作成と(2)個別的な集団についての事例研究が課題となる。 (1)の目録作成については、国立国会図書館が所蔵するGHQ関連文書、とくに宗教に関するレポートや新聞・雑誌の調査によって、各集団の基礎情報を収集する。また、特高警察の調査資料を活用することで、総力戦期の宗教活動についての概要を把握することを目指している。この作業を通じて、民衆宗教の発生時期・地域・活動内容などに関するデータを集積していく。 (2)については、名古屋市の法音寺や、茨城県北茨城市の皇祖皇大神宮などの個別宗教での聞き取り調査や史料調査を行い、1940年代の具体的な活動や思想について検討する。
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次年度使用額が生じた理由 |
平成26年度に、山口県の天照皇大神宮教での調査を予定していたが、調査先との日程の調整がつかなかったため、当該調査を次年度に行うことにし、未使用額が生じた。
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次年度使用額の使用計画 |
このため、天照皇大神宮教での調査を次年度に行うこととし、未使用額はその経費に充てることにしたい。
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