本研究は、1940 年代の日本社会における民衆宗教運動について、その生成と展開の実態を把握し、その歴史的意義を明らかにすることを目的とした。1940 年代は、総力戦体制が強化され、やがて破局にいたる前半期と、敗戦後の混乱とGHQ/SCAPの指導による新体制の構築が並行する後半期に大別される。前半期には、既成宗教は戦時体制への協力姿勢を強める一方で、貧・病・争に苦しむ民衆たちの救済という側面を放棄していった。後半期も、組織や教義面での再建に忙しい諸教団に民衆救済の余裕はほとんどなかった。そのような中、民衆の救済願望に応える活動をしていった群小の宗教集団が存在する。彼らの活動を軸に、1940 年代の民衆史を描きなおすことを試みた。 最終年度は、まず前年度までの作業を継続して、特高警察による戦時期の宗教調査の記録やGHQの民間情報教育局が収集した諸宗教活動に関する資料を中心とした調査を行い、1940年代の民衆宗教に関する目録および年表の作成を進めた。また、収集した資料を用いて1940年代の民衆宗教と戦後日本社会とのかかわりを分析した。 研究期間全体としては、まず1940年代にあらわれた「新興宗教」をめぐる同時代および戦後の言説を批判的に検討したうえで、こうした宗教をあらためて民衆宗教と位置づけ、宗教史・文化史の主題として検討しなおすべきことを提起した。つぎにGHQ/SCAPの宗教調査および特高警察の宗教調査を整理して、1940年代の民衆宗教に関する目録および年表を作成し、同時代の民衆宗教研究の基盤を築くことができた。また、これらの資料をもとに、総力戦期から占領期にかけてのご利益志向型/世直し志向型の民衆宗教の存在様態や主張を分析し、40年代における民衆の政治的想像力の発現として位置づけなおすべきであると論じた。 これらの成果は、40年代の民衆史研究に大きな貢献をなすものと考える。
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