研究課題/領域番号 |
26770032
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
新田 昌英 東京大学, 人文社会系研究科, 助教 (70634559)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | 思想史 / 心理学史 / 感情心理学 / 反省哲学 |
研究実績の概要 |
近代フランスにおける感情研究へのアプローチとして、今年度は19世紀前半の医師ブルセ(Broussais)のirritation理論を考察し、論文(Alain et Broussais)を執筆した。Irritationとは「いらだち」や「炎症/潰瘍」と訳される言葉であるが、ブルセはDe l’irritation et la folieという著作でirritationという概念を、精神疾患を含む広範な疾病の説明原理として用い、19世紀の精神医学およびコントの実証主義に影響を与えた。論文中ではブルセのirritationと哲学者アランのirritation概念を比較し、情念の生成や精神疾患の原因論におけるブルセのirritation理論の影響を考察した。 10月26日には広島大学で開催された日本フランス語フランス文学会の秋期大会で「応用心理学雑誌の寄稿者アラン」と題した研究発表を行った。プロポ(Propos)とは、意図や言葉と解される単語であるが、哲学者アランとその読者は、この哲学者に特有の、断章によるひとつの文学形式と解する向きがある。アランが発表したプロポのうち約50篇は、もともとは、1927年から1936年にかけて、『心理学と生活』(La Psychologie et la vie)という雑誌にアランが寄稿したものであった。その大半は、アランがまったく自由に書き連ねたものではなく、雑誌の編集部が設定した特集のテーマにその都度あわせて書いた注文原稿であった。これらの文章は、現在ではそのコンテクストをほぼ捨象するかたちで時系列順に並んで、著作集に収められているが、初出時の発表形態まで遡ってみると、同時代の心理学について論評するアランの活動が見えてくる。発表では無意識または下意識についてのアランの論評、生理学的心理学に特有の人間観、アランの意識論または自我論について分析した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
研究計画調書で当初の研究課題として定めた初期精神医学の感情研究およびスピリチュアリスムの情念論について、ブルセによる生理学の観点からの狂気理解およびブルセのスピリチュアリスム心理学批判を考察し、成果を論文にまとめた。
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今後の研究の推進方策 |
平成27年度は前年度の初期精神医学の感情研究に関する調査を継続しつつ、19世紀末にフランスで発展した実験心理学における感情研究に関する調査を行う予定である。さらにレヴィ=ブリュール、デュルケム、モースらの宗教論・祭祀論に注目し、未開社会の研究から導き出されたマナやトーテムといった概念に感情が果たす機能を比較検討しつつ、20世紀の哲学者による感情理論へ彼らの理論が与えた影響を明らかにすることを試みる。
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次年度使用額が生じた理由 |
調査および論文執筆用のコンピュータが未購入であること、勤務先大学の用務により他の海外出張に出る必要があったため、フランスに出張して研究者との打ち合わせおよび調査を今年度は行われなかったことにより、次年度使用額が生じた。
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次年度使用額の使用計画 |
平成27年度中にコンピュータを購入し、フランスに出張して研究者との打ち合わせおよび調査を行う予定である。
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