研究課題/領域番号 |
26770033
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
高山 大毅 東京大学, 人文社会系研究科, 研究員 (00727539)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | 日本思想史 / 儒学 / 中国認識 / 漢文学 |
研究実績の概要 |
江戸期の「中国」認識の変化を考察するために以下の4方向から研究を行った。 (1)荻生徂徠『絶句解』の研究:荻生徂徠が明代古文辞派の「復古」的な詩風を受容する際に、和歌の文学的伝統が重要な役割を果たしている可能性について検討した。『絶句解』と徂徠学派の詩を分析することで、本歌取り掛詞に近い発想がそれらに見られることを明らかにした。この成果は「荻生徂徠『絶句解』―古文辞派の道標」(井上泰至・田中康二(編)『江戸文学を選び直す』、笠間書院)として発表した。 (2)朱舜水に関する研究:祖先祭祀に対する朱舜水の議論が後代に与えた影響について分析した。朱舜水は当代の中国の儀礼の実施ではなく、古代の儀礼の復興を説いており、明代文化受容の窓口としてのみ朱舜水を捉える理解には問題があることを明らかにした。これについては、第4回徳川家旧蔵儒学関係史料調査報告会(二松学舎大学)で報告し、「封建の世の『家礼』―朱舜水・安積澹泊・荻生徂徠の祖先祭祀論―」(『季刊日本思想史』81号)にまとめた。 (3)徂徠学派の中国認識の研究:徂徠学派によって「道」と「聖人」が中国以外の地域に発見される過程について、検討した。これについては、「徂徠学以後の「道」と「聖人」―江戸中期における「中国」の相対化をめぐって―」という題でCPAG若手ワークショップ「普遍をめぐる問い――18~20世紀東アジアから考える」(東洋文化研究所)において発表した。 (4)「国学者」の中国認識の研究:初期宣長の「物のあはれを知る」説と中国認識の関係について、当時の通俗文化との関連に注目し分析を進め、論文を学術雑誌に投稿した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
江戸前中期の中国認識について多角的に研究を進め、その成果を論考及び公開の調査報告会・ワークショップで公表することができた。これらの機会を通じて、隣接領域の研究者から貴重な教示を得ることもでき、今後の研究方針についても新たな知見を得た。 当初は、研究の初期段階においては資料の分析に多くの時間がかかると考えていたため、初年度から複数の成果を公刊・発表できたのは予想以上の進展であったといえる。
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今後の研究の推進方策 |
今後は以下の三つの方向からの研究を考えている。 (1)江戸前・中期の中国認識の問題について、今年度の成果を踏まえてさらに詳細な検討を行っていきたい。朱舜水の学問と水戸徳川家の祖先祭祀の関係については、さらに資料調査を行い、具体的な儀節の設計と変遷についてもより緻密な分析を進めたいと考えている。 (2)江戸後期の中国認識について、中国の「道」と「聖人」の相対化の関連から考察する計画である。古賀トウ庵と會澤正志齋の中国認識を比較することで、文化年間から天保年間にかけての対外認識の変動を視野に入れつつ、中国観の問題を捉え直したい。 (3)文学における「復古」の問題について、古文辞派の詩文の個々の作品に対して精密な読解を行ない、知見を深めたい。
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