(1)林家の明朝文化受容の研究:林鵞峰の詩文を通じて、林家の日本・中国認識について検討した。林鵞峰の文章に特徴的な文体である問答体は、『本朝文粋』所収作品から材料を得るだけでなく、鄧志謨の「争奇シリーズ」と呼ばれる明末の著作から影響を受けている。林家の問答体については、国際東方学者会議で報告し、論文(「林鵞峰の問答体」)を発表した。また、「日本」的なるものの象徴として扱われる「桜」に関する鵞峰の作品を分析して、報告した。 (2)水戸徳川家の喪祭礼の研究:水戸徳川家の喪祭礼と『文公家礼』の関係については引き続き調査を進めており、祭祀で用いられる供物などについて新資料に基づき、検討を行なった。 (3)『絶句解』と中心とした徂徠の明朝文化の研究:継続して『絶句解』の注釈作成を行なっている。明代の古文辞派には見られない、徂徠学派独自の典拠表現の展開について新たな知見を得た。 (4)古賀トウ庵の中国認識の研究:昨年度に引き続き、トウ庵の対外認識を分析し、論文(「暴君と「士風」―古賀トウ庵再論―」)を発表した。金の海陵王について独特の評価を下している文章を中心に、彼の対外認識に表れる「士風」振起に対する関心を、寛政改革期から明治期に至る思想の流れの中に位置づけた。「復古」と中国認識の問題が、「接人」から「振気」へという思想史の展開と連動していることへの展望が得られたので、これについては政治思想学会で報告する予定になっている。
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