本研究では、以下の事柄が明らかになった。(1)古代中国と明代中国の違いに江戸期の学者は自覚的であり、明代文化の受容の際には、明代の学芸の「復古」的な手法を選択的に摂取していることがある。(2)18世紀には、徂徠学などの「復古」的な思想により、後代の中国に対する評価は下がる。また、「人情」理解と人柄の柔和さを重視する思潮がこの時期に広く見られ、本居宣長の「漢心」批判もこのような思想の流れに連なっている。(3)古賀トウ庵は、「武」を重視し、文弱である中国よりも、「武」に秀でた満洲人などを高く評価する。トウ庵は、古代中国をもはや理想時代と考えておらず、「復古」思想からも脱却している。
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