研究課題/領域番号 |
26770034
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研究機関 | 新潟大学 |
研究代表者 |
武藤 秀太郎 新潟大学, 人文社会・教育科学系, 准教授 (10612913)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2016-03-31
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キーワード | 朝河貫一 / 胡適 / 民主主義 / 封建 / 高木八尺 / IPR |
研究実績の概要 |
2014年度は、研究課題である朝河貫一と胡適を中心とした近代日中知米派知識人の思想的交流について、論文を執筆し、アジア政経学会の学会誌『アジア研究』に投稿した。これは「朝河貫一と胡適 ―日中知米派知識人の思想的交錯」という論題で、2014年9月に発行された『アジア研究』第59巻第3・4号に掲載された。 この論文ではまず、朝河貫一と胡適が1917年、アメリカから祖国へと帰国の途についた際、偶然にも同じ鉄道、旅客船に乗り合わせ、学術的な議論をかわしたことを、両者のさまざまな資料から明らかにした。また、朝河と胡適は、これ以後も連絡をとりつづけ、とくに胡適の「整理国故」をはじめとした考えに、朝河が少なからぬ影響を与えたことを指摘した。このように親しく交流をかわした両者は、皮肉にも日中戦争で、アメリカをめぐり相対立した立場にたつこととなる。この時期における朝河と胡適の言動については、それぞれ研究蓄積があるが、本論文では両者の関係を総合的に分析し、日中関係史、日中思想交流史において新たな一面を示すことができたと考える。 本年度はまた、朝河貫一や胡適と同年代である今井嘉幸、李大釗、小泉信三についても考察をおこない、2014年12月発行の『孫文研究』第55号に「今井嘉幸と李大釗」を、2014年10月刊行の猪木武徳、マルクス・リュッターマン編『近代日本の公と私、官と民』(NTT出帆)に「小泉信三の天皇像 ー君主をめぐる公と私」を、それぞれ発表した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
2014年度の「研究計画」として、「朝河と胡適が出会った1917年夏に、2人の間でいかなる対話、学術的交流が交わされたのか、そして胡適がその後、朝河の封建制研究をどう評価し、自らの主張へと活かしていったのか」というテーマをかかげたが、これまで順調に進展していると考える。 この1917年における両者の交流については、彼らの日記や私信などの資料を調査し、全貌をほぼ明らかにすることができた。その成果は、『アジア研究』第59巻第3・4号に発表した論文「朝河貫一と胡適 ―日中知米派知識人の思想的交錯」で、公にしている。また、「封建」概念をめぐる朝河と胡適の思想的関係についても、同論文でさまざまな角度から考察をおこなった。 このほかにも、日中両国における「封建」概念の変遷について、2014年12月に早稲田大学でおこなわれた私立大学戦略的研究基盤形成支援事業キックオフ・シンポジウム「新しい人文学の地平を求めて ―ヨーロッパの学知と東アジアの人文学」において、朝河と胡適を中心に、その成果の一端を公表することができた。 これらの学術論文、講演を通じ、「研究の目的」は十分に達せられたと考える。
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今後の研究の推進方策 |
2015年度は、「研究計画」に示したとおりに、IPRなどの学術団体を通じた両者の人間的つながりや日中問題へのとりくみ、および1930年代末におけるアメリカの動向をめぐる朝河と胡適の言動を考察してゆく。 福島県立図書館に所蔵されている「朝河貫一書簡資料集」には、未だ人物が特定されていない中国人と思われる人物から朝河へと宛てた手紙が、数多く残っている。その内容をみると、胡適について言及した内容も確認できる。朝河と胡適の関係をより具体的に明らかにするためにも、この「朝河貫一書簡資料集」に収められた資料を解読し、執筆者などを特定してゆきたいと考えている。 また、中国の北京大学図書館や国家図書館、アメリカのフーバー研究所、コロンビア大学図書館、イェール大学図書館などには、朝河と胡適に関する未公刊の資料が存在すると推測される。そこで、本年度は、これらの施設、機関に赴き、実地調査をおこない、その実態を明らかにする予定である。
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次年度使用額が生じた理由 |
当初、2014年度にアメリカのフーバー研究所へ1週間ほど赴き、資料調査をおこなう予定であったが、大学の業務などため、その時間を確保することができなかった。次年度使用額は、その調査のために残ったものである。
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次年度使用額の使用計画 |
次年度使用額は、2014年に実現できなかったフーバー研究所での資料調査にあてたいと考えている。渡航時期は、2015年度の夏を予定している。
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