最終年度になる本年度は、フランツ・ローゼンツヴァイクの自由ユダヤ学院やその周辺にいたユダヤ人たちの思想、また彼らと19世紀に誕生したユダヤ学との両義的関係を中心として、〈ユダヤ・ルネサンス〉の思想史を総合的にまとめた。そのさい、平成26年度ならびに27年度に行ったユダヤ人思想家のニーチェ受容や学術組織に関する研究成果も有機的に結びつけるように工夫した。 1.京都ユダヤ思想学会と日本宗教学会において19世紀のユダヤ学と20世紀のユダヤ学批判の関係について発表した。前者ではイェルシャルミのユダヤ的記憶論を取り上げながら、彼の歴史学批判が20世紀の反歴史主義的な思想にも通じていることを指摘した。後者では19世紀のユダヤ学の成立に焦点を当てつつ、後のM. ブーバーやI. エルボーゲンがユダヤ学に対してどのような態度を取ったかをテクストや講義録を用いて考察した。これによって自由ユダヤ学院の政治‐教育的機能を解明するうえでも、その周辺に集まったユダヤ人思想家の研究は必須であることを再確認できた。くわえて、政治哲学研究会の雑誌『政治哲学』にローゼンツヴァイクの著書『ヘーゲルと国家』について書いたことで、当時のドイツ性とユダヤ性に関する複雑な状況を考えるための重要な視点を獲得できた。 2.平成27年度に出版した『ドイツ・ユダヤ思想の光芒』(岩波書店)は本研究を進めるうえで大きな役割を果たしたが、拙著についていくつかの反響を得ることができた。とくに広島比較文化研究会では、拙著が成立した背景について話す機会を得た。日本のドイツ・ユダヤ思想史研究のすぐれた業績を振り返りながら、拙著がなぜ〈ユダヤ・ルネサンス〉に注目し、近代ユダヤ人の新しいアイデンティティを論じたかを説明した。また当時の脱宗教化した社会と宗教に目覚める若手世代の関係について議論できたことは、本研究をまとめるうえでも有益だった。
|