研究課題/領域番号 |
26770037
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研究機関 | 国際基督教大学 |
研究代表者 |
柴田 真希都 国際基督教大学, キリスト教と文化研究所, 研究員 (70722916)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | 共和主義 / 近代日本 / アングロ・サクソン / 内村鑑三 / 中江兆民 / 木下尚江 / ジョン・ロック / ロバート・N・ベラー |
研究実績の概要 |
本年度は所記の研究課題に対して主として二つの方法を設定して研究を進めた。一つは近代日本の具体的な共和主義論の発掘であり、もう一つは西洋政治思想史における共和主義(とくにアングロ・サクソンの文脈における)の内実をめぐる理解の進展である。 前者に関しては当初の設定通り、中江兆民、内村鑑三、木下尚江に着目し、彼らにおける「共和主義」論と、その応用とみられる思想言論活動の展開を跡付けることを目的とした。その際、従来、共和主義という文脈では全く触れられてこなかった内村鑑三の共和主義論を整理し、彼の日清戦争以後、明治末に至る歩みを、その独特の共和主義的志向から再解釈することを試みた。従来、多様な問題圏においてよく語られてきた内村を、中江から木下へと至る共和主義者の系譜の中に、具体的には、中江と木下の間に置くべき人物として位置づけようとするのが本研究の一つの見通しとなった。またそのような視座から新たに内村の思想史的位置を論じたものが、本年度東京大学に提出した博士論文『明治知識人としての内村鑑三-その批判精神と普遍主義の展開』である。 一方、後者に関してはとくに二人の思想家のテキストに接近し、共和主義という西洋由来の概念の歴史的性質と理論的背景の探究を行った。一人は17世紀イギリスの思想家ジョン・ロックである。これは特にcommonwealth(共和国)の概念、政府の保護義務の対象となるpropertyの概念、あるいは革命権の問題などを考慮し、それらを日本近代を眺める際の参照枠として適用することを念頭に置いた作業である。もう一人は20世紀アメリカの社会学者ロバート・N・ベラーである。彼はアメリカの古典的な理念の一つとしての共和主義を重視した学者であり、その若き日の日本研究と、その後の共和国アメリカの理念をめぐる研究の架橋に、日本における共和主義を見据える歴史的視座の獲得が可能となると考えられたからである。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
本年度は近代日本の資料としては内村鑑三を中心とした共和主義概念の整理と分析、その成果の公表に終わり、その周囲に配置したいと考えている中江兆民や木下尚江を十分具体的に扱う論稿を準備することができなかった。その理由は内村鑑三を対象とした大部の博士論文を完成させ、提出する作業があったことが一点であるが、もう一点は、当初予定していなかった、西欧の共和主義の伝統を理解するための、理論的著作の読解を具体的な事例研究と並行して、研究過程に組み込んだからであったと理解している。当初、こうした理論的著作の読解は、近代日本の具体的な事例を資料からある程度洗い出してから、ということを予定していたのだが、実際のところ、具体的な資料を探索する基準となるところの「共和主義」の様相や限界がどのようでありえたのか、ということを確定するために、始めから並行してその歴史的概念の理論史的理解を進める必要を強く感じることになり、そのための研究資料や研究環境の整備(具体的には加藤節成蹊大学名誉教授を中心とする「ロックを読む会」の立ち上げとその運営など)に手間と時間が必要であったことが挙げられる。 このように、現状では具体的な事例研究の進展はやや遅れているといわざるを得ないが、一方で後回しの予定であった西洋政治思想史上の共和主義をめぐる理論史的研究を前倒しにして、並行して進めることになったため、研究の進展状況としてはバランスのとれたものとなり、次年度以降の資料探索やテキスト選定といった基礎的作業に対しては当初より見通しが立ちやすくなったと考えられる。このことは4年間で一区切りの研究の初年度の段取りとしては決して手落ちではなく、むしろ予定変更によって、より手堅い方法論に設定しなおすことができたのではないかと考えられるところである。
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今後の研究の推進方策 |
今後も引き続き近代日本の歴史的資料を扱う資料読解と、西洋政治思想史における共和主義の理論的探求の二つの方法を組み合わせて行うことを考えている。 具体的な作業としては明治30年代の内村鑑三における自由民権運動の遺産の継承や、その後の社会民主主義との連帯性を明らかにすることによって、内村よりやや前に活動した中江とやや後に活動を開始した木下の、それぞれの「共和主義」的傾向との思想的接触点を探ることを目指す。内村の友人や愛読者の中には、政治化して民党の活動に参加するものや、社会主義運動に参加する青年たちが多数現れたことから、彼を基点として、中江兆民や木下尚江の「共和主義」のそれぞれの特色を比較的にあぶりだしていく、ということが次に待ち構える作業になると考える。中江においては、内村と同じく、政治以前の事柄としての、内心の自由の確立(リベルテ・モラール)を最優先課題とする「自治の国」(Res Publica)周辺の議論が問題化されよう。また、木下は自らを「共和主義者」だと分析した人物であり、その人類平等志向ゆえに反天皇制論者として名高いが、クロムウェルの革命を衝撃として受けとめたという点で、不敬事件以後の内村と通じるものがあったと見える。各人の公にした単行本や雑誌論文のみならず、私的な日記、書簡の類や他者による伝聞の記事をも渉猟しつつ、その実態を文献批判によってじっくりと組み立てていくことが本研究方法の手順となる。 一方、理論的課題としては引き続きジョン・ロックを中心とした17世紀イギリスの自由主義的commonwealth論を見ていくと同時に、18世紀アメリカ独立革命前後の「共和主義」の内実や、19世紀南北戦争時の「共和主義」の理念をめぐる議論も参照しつつ、アングロ・サクソンの思想文脈に流れる市民的自治/統治の概念を明確に把握していくことを目標としたいと考える。
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次年度使用額が生じた理由 |
本年度は国内における文献調査や研究会参加を主とした活動としており、図書購入費や出張費以外に大きな金額を使用する場面がなかったこと、また次年度以降(とくに第三年度と第四年度)にアメリカ合衆国ほか海外における資料調査を予定しており、そのための渡航費や出張費を十分準備しておく必要があると考えたため。
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次年度使用額の使用計画 |
次年度以降(とくに第三年度と第四年度)にアメリカ合衆国やイギリスにおける資料調査を予定しており、そのための海外渡航費や出張費に用いることを予定している。
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