研究課題/領域番号 |
26770044
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研究機関 | 大阪大学 |
研究代表者 |
田中 均 大阪大学, 文学研究科, 准教授 (60510683)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | 美学 / 民主主義 / テアトロクラティア / 観客 / 国際研究者交流 |
研究実績の概要 |
研究計画初年度である平成26年度は、当初の計画では、19世紀フランスにおける「テアトロクラティア」の概念の用法とそれに関連する芸術と民主主義をめぐる諸問題について検討する予定であったが、研究代表者の従来の研究との連続性による研究の効率性を重視して、古代から近代までの西洋美学史の「テアトロクラティア」の用法と関連する諸問題について検討を行った。 具体的にはジャック・ランシエールの著作『哲学者とその貧者』(1984年)におけるプラトン論、マルクス論、および、『沈黙する言葉』(1998年)『アイステーシス』(2011年)における近代ドイツ美学・文学論の読解を検討した。 その結果、ランシエールは『哲学者とその貧者』において、知の所有者による民主主義への批判をプラトンとマルクスの両方に見出し、さらにどちらの場合も知の所有者への脅威として演劇・観客というイメージが存在することを確認した。研究代表者は、こうした民主主義批判が現代の参加型芸術にも見出されることを指摘する研究発表を8月に行った(ISSEI Conference)。 さらに、ランシエールによる近代ドイツの美学・文学論の読解に関しては以下の結論を得た。ロマン主義の文学理論は、過去に見出される共同体を将来再現可能なものとみなした点でヘーゲルの批判を免れなかったが、従来書き手とみなされなかった人々を小説の書き手として認めた点で「芸術の美的体制」の重要な一段階をなし、これは民衆の支配としての「テアトロクラティア」の近代における現象形態の一つである。この点については、新潟大学「間主観的感性論研究推進センター」公開研究会で報告し(9月)、『大阪大学大学院文学研究科紀要』に論文を発表した。 また演劇・パフォーマンス研究者のカイ・ファン・アイケルス氏(ベルリン自由大学客員教授)を招聘し、近代美学と観客の関係について大阪大学で講演会を開催した(3月)。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
当初の計画を変更し、第1年度に行う予定の内容(19世紀フランスにおける「テアトロクラティア」の用法と関連する諸問題)を次年度に先送りしたが、その一方で、第2年度に行う予定であった、近代ドイツの美学・文学論に関する研究を前倒しして行ったため、おおむね順調に研究は進展していると考える。 国際研究者交流については、ポルトガルで開催された、ヨーロッパ思想を主題とする国際学会で発表したほか、海外の研究者の招聘も行い、当初の予定を上回る成果を上げたと判断する。
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今後の研究の推進方策 |
第2年度は、第1年度に予定していたが先送りした課題に取り組む。とりわけ、ランシエールの主著の一つである『プロレタリアの夜』を検討の対象として、19世紀における「テアトロクラティア」の概念の用法とそれに関する諸問題について研究する予定である。 国内外の研究協力者との情報交換も第1年度同様に積極的に行う予定である。
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次年度使用額が生じた理由 |
物品費、特に書籍を購入する予算について、一部、平成26年度よりも翌27年度の研究のために活用する方が研究の効率上有益であると判断したため、「次年度使用額」の欄の金額を27年度分として請求した助成金と合わせて使用することとした。
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次年度使用額の使用計画 |
第2年度の物品費、特に書籍の購入予算に充当し、研究資料の充実を図る。
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