研究課題/領域番号 |
26770044
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研究機関 | 大阪大学 |
研究代表者 |
田中 均 大阪大学, 文学研究科, 准教授 (60510683)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | 観客 / デモクラシー / 芸術の美的体制 / 美的国家 / デカダンス / 叙事演劇 / プラトン |
研究実績の概要 |
本研究課題の第2年度にあたる本年度は3つの観点から研究に従事した。 ① 第1年度における、ジャック・ランシエールの近代美学史・芸術史記述における、「テアトロクラティア」の語および観客論について引き続き検討した。この成果の一部については、『表象』の共同討議「パフォーマンスの場はどこにあるのか」において報告した。 ② 近代美学の成立の政治的含意について検討した。とりわけ、「美的イデオロギー」をめぐってポール・ド・マンがシラーの崇高論・美的教育論に対して行った批判を検討した。その成果は、日本シェリング協会第24回大会(2015年7月4日)におけるクロス討論「「美的なもの」のイデオロギーを再考する――ポール・ド・マンによる批判をめぐって」において報告した。 ③ 昨年度以来の研究の中間的な総括として、「テアトロクラティア」の用例を歴史的に概括した。プラトン『法律』、ニーチェ『ヴァーグナーの場合』、ベンヤミン『叙事演劇とは何か(第1稿)』における「テアトロクラティア」の用例を取り上げ、それぞれのテクストの文脈を再構成した上で、同じ語が、能動的な観客から、受動的であり芸術家・批評家によって操作される観客という、いわば逆の意味へと反転したことを明らかにした(ニコラウス・ミュラー=ショルによる先行研究では、ベンヤミンの叙事演劇論における「テアトロクラティア」の語の文脈を極めて技巧的に解釈することによって、「テアトロクラティア」の意味の一貫性を立証しようとしているが、本研究ではそれに対して反論している)。この歴史的概括については、第26回待兼山芸術学会研究発表会(2016年3月26日)において、「テアトロクラシーとその敵たち」という題目で報告した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
前年度の研究成果を深化させるとともに、これまでの成果の中間的な概括として、本研究の中心概念である「テアトロクラティア」の用例を俯瞰することができた。 それによって、これまでの研究の問題点と今後の研究の方向性が明確になり、4年間の研究の後半において研究を収斂させるための十分な手がかりを得た。 また、近代美学の成立の政治的含意という観点からの検討を行うことによって、本研究自体の文脈について確認することができた。 ただし今後は、「テアトロクラティア」のそれぞれの用法についてより正確かつ詳細に文脈を再構成することが必要であり、これまで以上に多くの文献調査を行う計画である。
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今後の研究の推進方策 |
次年度は、これまで取り上げた各用法についてさらに精緻に分析を行うと同時に、より広い視野から歴史的文脈を再構成することに精励する。 本研究はこれまで、研究代表者単独で展開してきた。その理由は、研究の方向性と課題を見定めるための基本的調査・分析は研究代表者自身が行う必要があったこと、および、研究期間第1・第2年度に研究代表者が教育等の職務に大きな労力を割かざるをえなかったため、研究協力者との連携を研究期間の後半に行うよう計画変更したことである。 次年度以降は、これまでの研究成果を元に、研究協力者との対話を緊密に行うことで、さらに研究を精緻化していく。
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次年度使用額が生じた理由 |
当初の予定では、当該年度に、研究協力者と連携して、研究会等を開催することを計画していた。しかし、研究を進めるなかで、研究期間の前半は研究代表者単独で行い、そのうえで研究協力者との意見交換をすすめることが妥当であると考え、計画を修正した。 その理由は、第1に、研究の方向性と課題を見定めるための基本的調査・分析は、まず研究代表者自身が単独で行う必要があり、その作業が研究の大きな部分をしめると判断したことである。第2に、外部的要因として、研究期間第1・第2年度に研究代表者が教育等の職務に大きな労力を割く必要が生じたこともあり、研究会・講演会などの企画は、研究期間第3年度・第4年度に集中して開催することとした。
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次年度使用額の使用計画 |
次年度は、ひきつづき文献の調査を進めると同時に、学内外の研究協力者とのセミナー・講演会を開催する(3回程度)。 それによって研究を深化させると同時に、それぞれの時点での研究成果を公開して、ひろく研究者からの反応を求め、研究の改善に役立てていくことを計画している。
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