本研究では、プラトンが歌舞における「観客による支配」を批判して用いた言葉「シアトロクラシー」に注目し、この言葉および関連する諸問題が西洋近代の美学、具体的にはルソー、ニーチェ、ベンヤミン、ランシエールそのほかの思想家の理論においていかなる展開をたどったのかを探求した。そこで明らかになったのは、「シアトロクラシー」という語の意味の変遷は、デモクラシーの勃興から危機への状況の変化に対応していることである。またこの概念を用いる思想家たちが、「大衆」的な観客に対して否定的ないしは(全く否定的とは言えないにしても)両価的な態度を示す傾向には一貫性があることも明らかになった。
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