建築論に関する研究の蓄積を元に,改めて芸術論の主軸としての美学,および大局的に見て近代建築論と並行して発生したものと考えられるデザイン論の3軸の交渉を,4つの具体的なフェーズを通して描き出す研究である.貫戦期というフレームのなかで,戦中の資料の乏しさを埋めるという課題が付きまとったが,4つのフェーズのうち1つ(1930年代,特に渡辺吉治と外山卯三郎を中心とした議論のネットワーク)に関しては成果発表を準備中であり,2つ(商工省工藝指導所を中心とした,および世界デザイン会議に向けた議論のネットワーク)に関しては分析を進め,同じく成果発表につなげる.最後の1つ(小池新二,勝見勝らにみるデザイン論と美学の交渉)に関しては資料を探す枠組みを変更することで対応できると思われるが,これは別の課題(大学・学校におけるデザイン教育)として継承・発展させて取り組んでいるところである. 美学会を念頭に置いた成果発表では,渡邊吉治と外山卯三郎,および彼らが中心になって刊行していた『美学研究』『芸術学研究』両誌の傾向について,当時の建築論から見た独特の位置づけから芸術論としての傾向に迫る予定である.また商工省工藝指導所に関しては他の研究者が組織的に成果を積み上げているので,文字資料を中心とした分析に絞る予定である.世界デザイン会議についても当時の雑誌を中心とした分析に絞って既存の発表成果との照合に取り組んでいる.
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