研究課題/領域番号 |
26770048
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研究機関 | 筑波大学 |
研究代表者 |
太田 岳人 筑波大学, 芸術系, 特別研究員(PD) (40722632)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2016-03-31
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キーワード | 美術史 / ブルーノ・ムナーリ / ミラノ / 出版文化 |
研究実績の概要 |
本研究は、現在の日本においても高い評価を受けている芸術家・デザイナーであるブルーノ・ムナーリが、二つの世界大戦間期においてどのような自己形成を遂げたかについて、特にこの芸術家の拠点となったミラノという都市の環境とのつながりから解明することを目的とするものである。 本年度においてはまず、ムナーリについての基本的な文献と史料を集めるとともに、海外のムナーリ研究者による情報共有サイト「MunArt」に公開されている、同時代史料や研究論文の通読にも努めた。日本国内での基礎的な作業を終えた後は、2015年1月下旬から1ヶ月弱イタリアに滞在し、ローマ国立図書館、フィレンツェ国立図書館、ミラノ国立図書館、ミラノ市立中央図書館などに残された、ムナーリに関わりのある出版物の調査を行った。具体的には、若き日のムナーリが制作者として携わった広告冊子『リノリウム:その製造』(1938年)や、教育的な絵本セット『世界・空気・水・大地』(1940年頃)のような出版物、またミラノの抽象画家グループの拠点であり、ムナーリも出入りしていたことで知られるミリオーネ画廊の機関誌『イル・ミリオーネ』など芸術雑誌の名が挙げられる。またイタリア滞在中には、トレント・ロヴェレート近現代美術館付属20世紀アーカイヴ(ロヴェレート)にも赴き、同アーカイヴに収められている未来派の芸術家の文庫の中から、陶芸作家トゥリオ・ダルビソラや彫刻家タイヤートらにムナーリが送った手紙も閲覧した。こうしたイタリアでの調査と、アメリカの「マリネッティ文書」の調査の一部を踏まえ、年度末に論文を公表した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
ムナーリについての基礎的なモノグラフや情報の収集、アーカイヴの資料などについては、一通りの蓄積をすることができた。ただし、本年度の研究を通じて、大戦間期のムナーリが何らかの形で関わっている商業出版物の種類と量は予想以上に多いことが判明したため、それらの分析には引き続き時間を要すると考えられる。
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今後の研究の推進方策 |
ミラノとムナーリの関係性を考える上で、本年度の研究を通じて再認識された大きな課題は、出版の問題である。経済の中心地であるだけでなく、出版産業の一大中心地でもあったミラノにおいて、ムナーリは編集者、グラフィック・デザイナー、イラストレーターといった様々な仕事を請け負っており、芸術家が第二次世界大戦の最中に公刊した『ムナーリの機械』(1942年)のような単著も、そうした経験からもたらされている。研究者は当初の計画においてすでに、モンダドーリ社やエイナウディ社といった出版社のアーカイヴの活用を視野に入れているが、それらの調査に加える形で、1930年代のミラノで発刊されていた各種の商業出版誌(一般誌、女性誌、文芸誌、戯画・ユーモア雑誌、そしてファシズム体制の宣伝誌に到るまで)におけるムナーリの寄与について、より踏み込んだ調査を行う。
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