最終年度においては、前年度の研究を通じてその重要性が再認識された、若きムナーリの芸術形成に対するミラノの出版産業の状況の影響を解明することを主な目的とした。2015年6月から8月まで、イタリア(ミラノ、ローマ、フィレンツェ、トリノ)に滞在して行った現地調査では、「エイナウディ文庫」(トリノ国立文書館)など出版社のアーカイヴ資料の収集についてまだ至らない点が残ったものの、各都市の国立・市立図書館においては、1930年代のミラノから発刊され芸術家も寄稿者・編集者としてたずさわっていた、各種の商業出版物についての幅広いサーヴェイを行うことが出来た。 『ムナーリの機械』(1942年)の図像の原型が発表された『セッテベッロ』を含めた、『ベルトルド』『マルカウレリオ』などのユーモア漫画紙、さらには『ムナーリの写真記事』(1944年)における芸術家の文章の前提となっている、モンダドーリ社のグラビア誌『テンポ』および女性誌『グランディ・フィルメ』などを熟読し、複製とデータを収集蓄積することで、研究者は第二次世界大戦中に芸術家が発表した一連の著作が準備される過程についての理解をより深めた。 同年10月には、昨年からなされてきたムナーリ研究の蓄積を、美学会、イタリア学会など3つの学会・研究会で発表し、年度末にはそれらの成果を含んだ論考を公表することが出来た。また『ムナーリの機械』に関する論考が、現在学会誌の審査を受けている段階である。
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