研究課題/領域番号 |
26770050
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研究機関 | 東京藝術大学 |
研究代表者 |
船岡 美穂子 東京藝術大学, 美術学部, 講師 (90597882)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | 18世紀フランス / フランス美術 / 陶磁器 / 美術愛好家 / 愛国的美術趣味 / 静物画 / 風俗画 / 美術史 |
研究実績の概要 |
本研究の目的は、18世紀フランス絵画に描かれた陶磁器の表象と、陶磁器及びその絵画作品の受容の諸相を明らかにしようとするものである。具体的な課題として主に、①絵画作品にモティーフとして描かれた陶磁器の種類や時代に伴う変化、②陶磁器と、陶磁器がモティーフとなった絵画作品の受容者の傾向、③愛国的な美術趣味とのつながり、④制作に際しての画家と陶磁器の接点、の解明が挙げられる。 本年度は、テーマに沿った文献資料や画像資料の収集を行い、整理や分類といった基礎的な整備を進めるとともに、これまでに既に整えた予備研究の経緯を踏まえ、静物画作品に研究対象を絞った。①について言えば、フランスの静物画作品では、17世紀から18世紀前半にかけては、日本・中国の輸入された陶磁器が描かれる一方、18世紀半ば以降になるとフランス製の陶磁器がよく描かれるようになっていた。このことから、実際の陶磁器の生産や流行と、絵画の中のモティーフとして描写された陶磁器の傾向に、ある程度の関連性があることを確認することができた。また本年度は、陶磁器の企画展が国内で開催されて、実見調査の機会を得ることができた。②について言えば、18世紀後半の旧体制期からフランス革命後の帝政期にかけて活動した静物画家アンヌ・ヴァレイエ・コステル(1844-1818)の花卉画作品を大きく特徴づける青い磁器のモティーフに着目して調査研究を進めた。画中の青い磁器の花器や壺のモティーフには、セーヴル窯の磁器の流行が反映された可能性が高く、顧客層も、セーヴル磁器を購入できた限られた愛好家と重なる傾向が明らかとなった。④に関して言えば、こうした顧客との接点や交流ばかりでなく、ヴァレイエ=コステルが自らセーヴル磁器を所有し、磁器制作の下絵も提供していたことが確認された。この成果は、論文を執筆して報告した。③は、上記の調査研究をもとに考察を継続中である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本年は初年度にあたるが、昨年度より資料収集を中心とした予備調査を継続していたことにより、早い段階で研究対象を静物画作品に絞ることができた。ただ、2015年2月から3月にかけて計画していたフランスを中心とする海外調査は、政情不安のために来年度以降に延期することになった。しかし、国内での「華麗なリモージュ磁器の世界展」、また多数のセーヴル磁器を含む「デミタス・コスモス展」といった企画展において、磁器の実見調査をする機会を得ることができた。また、文献資料や図版資料の収集と整理を集中的に行うとともに、これまでの予備研究をもとに、17、18世紀の主要な静物画作品の中に描かれた陶磁器の傾向も検討し、陶磁器そのものの流行との相関関係についても確認した。 こうした基礎的な調査をもとにして、ヴァレイエ=コステルの静物画作品に焦点を絞って研究を進め、上述のように、本研究テーマの目的にかなった新たな知見を得ることができたと考える。この個別研究を通じて、絵画に描かれた事例としては比較的珍しいセーヴル磁器の重要性が確認された。従って、来年度以降もセーヴル磁器にも重点を置きつつ調査・分析を進めることを検討している。 さらに、1757年のセーヴル窯の開窯の重要な立役者であり、自らも陶磁器の愛好家であったポンパドゥール夫人の肖像画を対象とした調査研究を進め、論文にまとめて報告した。これは、本研究においては予備研究に位置付けられるものである。以上のことから、研究計画はおおむね順調に進展していると考える。
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今後の研究の推進方策 |
今年度は政情不安のため海外調査を延期したことにより、次年度はセーヴル陶磁器美術館、国立図書館、美術史研究所を中心とした陶磁器及び資料を対象として、長期ないしは2回に分けてのフランスでの作品・資料の実見調査を予定している。また、関連テーマによる展覧会が海外で開催される場合には、調査の実施時期や滞在地の変更等、柔軟に対応したい。 海外調査以外の調査研究の方法と進捗状況に関して言えば、特に問題はないため、大きな変更を加えることなくこのまま継続し、成果は論文にまとめてゆく予定である。
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次年度使用額が生じた理由 |
2015年2月から3月にかけて計画していたフランスを中心とする海外調査は、同時期のヨーロッパの政情不安を配慮して、来年度以降に延期することになったため、次年度使用額が生じることとなった。
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次年度使用額の使用計画 |
次年度は、延期した海外調査を実施し、セーヴル陶磁器美術館、国立図書館、古文書館、美術史研究所を中心とした陶磁器及び資料を対象として、長期ないしは2回に分けてのフランスでの作品・資料の実見調査を予定している。従って、海外調査費用が予算の大きな割合を占める見込みである。また、関連テーマによる展覧会の開催や、研究の進捗状況に応じて、調査の実施時期や滞在地の変更等については柔軟に対応したい。 この他、参考文献、画像資料の購入を継続するとともに、資料の整理・記録に用いるコンピュータや文具類、また画像資料の撮影のためのカメラの購入を予定している。
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