研究課題/領域番号 |
26770050
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研究機関 | 日本大学 |
研究代表者 |
船岡 美穂子 日本大学, 芸術学部, 研究員 (90597882)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | 18世紀フランス / カルモンテル / サン=クルー / 陶磁器 / 肖像画 / オルレアン公 / ブフレール夫人 / イギリス趣味 |
研究実績の概要 |
前年度以来、一部計画を前倒しして進めている、喫茶の情景を描いた絵画の中の陶磁器の描写の調査を行った。オルレアン公に仕えた水彩素描家・著述家カルモンテルは、その宮廷を取り巻く貴族や軍人、学者、啓蒙思想家、芸術家といった様々な人物の姿を描いたことで知られる。この作品群のうちの数点に、よく似た意匠の陶磁器のポット、カップとソーサーといったモティーフが繰り返し描写されている。あわせて行った陶磁器作品の実見調査、及び財産目録をはじめとする一次史料の分析から、これらは同家が所蔵したサン=クルー窯の陶磁器である可能性が高いことが新たに判明した。特に《ブフレール伯爵夫人》(1760年)の喫茶場面には、同時期に流行し始めたイギリス趣味の影響が認められると同時に、啓蒙思想に造詣の深いサロンの女主人でもあった伯爵夫人のアトリビュートとしての機能を持つことが明らかとなった。また、当時の喫茶の習慣そのものと喫茶道具はイギリス趣味でありながら、陶磁器のティーセットはフランス製である点から、同時期の美術にみられる「自国美術の愛好趣味」が解釈できる。従って、本作品について言えば、当初の研究計画の段階で立てた仮説が立証されたと言える。なお、以上の分析・考察の過程で、国内外の陶磁史の研究者と意見を交わし、専門的立場からの助言や教示を得ることができた。 オランダとフランスで実施した現地調査では、絵画作品ならびにフランス軟質磁器を中心とした陶磁器作品を実見し、図書館と古文書館で文献資料の閲覧と収集を行った。加えて、18世紀の陶磁器とそれに関連する絵画作品の研究資料を集めたアーカイヴを閲覧することができた。国内でも「染付誕生400年」(根津美術館)、「コレクターの眼 ヨーロッパ陶磁と世界のガラス」(サントリー美術館)といった展覧会や、関連する研究シンポジウムを通じて最新の研究動向から知見を得ることができた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本年度は、昨年度に実施した海外でのカルモンテルの肖像画作品の実見調査の成果を踏まえ、この作品群に描かれた陶磁器の同定と分析に取り組むことができた。オランダとフランスでの長期調査を実施し、当初予定していた調査に加え、所蔵先が異なるために昨年度はできなかった作品調査を補うことができた。また、研究の進展に伴って新たに必要となった一次史料の閲覧、文献資料の収集することもできた。従って、政情不安ゆえに初年度と2年目に一時的に見送ったり縮小したりしていた現地調査の内容を挽回することができた。 以上の海外調査での成果を踏まえて、収集した文献資料の読解と分析、考察を進めた。単に画中の個々の陶磁器の描写の分析にとどまらず、嗜好飲料の流行の背景にあるオルレアン公とコンティ公の社交を中心としたイギリス趣味と啓蒙主義をめぐる文化史的な考察も加えた。《ブフレール伯爵夫人》にみられるように、描かれたサン=クルー窯の陶磁器にはオルレアン公や同家と縁の深いモデルを象徴する意味がこめられていたこと、また他の類似作品との比較を通じて、イギリス趣味の喫茶でありながらフランス製の陶磁器のティーセットが用いられる傾向があった点を新たに指摘した。 以上のように、絵画に描かれた陶磁器には社会的意味、すなわち持ち主や庇護者、あるいは画中のモデルと結びついた意味がこめられていたことが明らかとなった。また、自国製の陶磁器の愛好する傾向が認められることから、本年度の研究対象について言えば、当初の研究計画で想定していた仮説を立証できたと言える。これらの成果は、発表して論文にまとめた。 従って、本研究はおおむね順調に進捗しており、部分的には計画以上に進展していると考える。
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今後の研究の推進方策 |
研究計画や調査方法に大きな変更はない。これまでの調査結果を踏まえて、サン=クルーやシャンティイを中心とした軟質磁器に重点を置いて、収集した画像・文献資料を整理し、引き続き肖像画、風俗画、静物画作品を中心として、画中の陶磁器の描写の分類・考察を行い、論文を執筆する。最終年度であるため、全体の研究成果をまとめるべく報告書の作成を進める。また、進捗状況に応じて調査を補完するべく、フランスを中心に海外調査を行う予定である。
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次年度使用額が生じた理由 |
当初は海外調査を2回に分ける予定であったが、長期の調査として1回にまとめたことによる差額、ならびに一次史料の調達が年度末に間に合わなかったことが原因となって、次年度使用額が生じた。
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次年度使用額の使用計画 |
次年度もフランスを中心とした海外調査を実施予定である。また、上述の一次史料をはじめとする図書や文献資料、画像資料を購入し、成果発表や論文投稿のための諸経費として使用することを予定している。
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