ヨーロッパでは、13世紀に東洋磁器がもたらされて以来、磁器が珍重されて、各国で製造の試みが繰り返された。フランスでは18世紀半ば頃から、陶磁器の製造技術が飛躍的に発達し、自国での生産が可能となり、シャンティイ、サン・クルー、ストラスブールといった窯で作られた優れた製品が作られてゆく。こうした陶磁器の愛好は王侯貴族や豊かな上流市民の間に広まるとともに、風俗画や静物画といった絵画の中に頻繁に描かれるようになってゆく。本研究は、18世紀フランス絵画に描かれた陶磁器の表象と、陶磁器とそれが描かれた絵画の受容の諸相を明らかにしようとするものである。本年度は最終年度にあたるため、上記の課題に沿って調査を継続しつつ、これまでに実施した研究の成果をまとめた。 研究計画および調査開始時は、東洋磁器の絵画表象は減少すると仮説を立てたが、調査と考察を進めた結果、東洋磁器は18世紀を通じて継続的に愛好され、絵画の中では、陳列棚や暖炉飾りとして装飾として飾られているように描かれていることが多かった。一方、フランスの軟質磁器(サン=クルー窯、シャンティイ窯)は、食卓や化粧台といった関連するモティーフとともに肖像画や風俗画の画中の人物像が使用している様子が描かれる傾向が認められた。セーヴル窯の磁器について言えば、絵画に描かれることは極めて稀であった。例外的な事例として、アンヌ・ヴァレイエ=コステルの花卉画数点を取り上げ、青いセーヴル磁器が選択された背景には、17世紀以来のラピスラズリの壺をモティーフとする絵画伝統があったと結論付けた。
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