平成27年度の研究においては、ヘルドルプ・ホルツィウスおよび2人の息子の活動について文字史料と作品の両面から調査を行った。イギリスでの調査(7月)では、昨年度に引き続き、ロンドンの国立古文書館、議会公文書館、国立肖像画ギャラリー附属図書館での調査を行い、ヨーリス・ヘルドルプの家族および友人関係についての史料を収集した。ベルギー、オランダ、ドイツでの調査(9-10月)では、ルーヴェンとケルンの図書館・古文書館、およびデン・ハーグの美術史研究所において、ヘルドルプ・ホルツィウスとメルヒオール・ヘルドルプに関する調査を行った。これらを通して、新たにヘルドルプ一族と繋がりのあった複数の版画家や画商の存在が明らかとなった。また、作品に関する調査では、ヘルドルプ・ホルツィウスの基準作のひとつ《スザンナと長老たち》(ブダペスト、国立絵画館)がミヒール・コクシー帰属の同主題作品(カールスルーエ、クンストハレ)を下敷きとして成立したことを明らかにし、学術雑誌上で報告した。ケルン移住後の作品に他作品からの引用が見られることが立証されたのは初めてであり、他のネーデルラント出身芸術家との交流を示唆する点できわめて意義深い。 2年間の調査全体を踏まえ、ヘルドルプ一族の人的ネットワークに関して以下の3点が指摘できることが明らかとなった。(1)「第一次集団」の形成においては職業上の結びつきがきわめて大きな重要性を持つこと(版画家や画商との婚姻)(2)顧客・同業者の結びつきが複数の世代にわたって引き継がれていくケースが見受けられること(ヤーバッハ家およびデ・パッセ工房の事例)(3)各移住先における同国人ネットワークが注文の獲得や宣伝に重要な役割を果たしていること(ケルンにおけるネーデルラント商人、ロンドンにおけるネーデルラント出身芸術家コミュニティの存在)
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