本研究は、法隆寺献納宝物として東京国立博物館が所蔵する法隆寺伝来の上代裂(じょうだいぎれ、古代の織物)を中心に、献納宝物及び正倉院宝物の歴史的・文化的背景を造形の側から明らかにするとともに、現在バラバラの状態で保管されている上代裂について、本来作品として仕立てられていた当時の組み合わせを作品調査に基づいて明らかにするものである。 また、未解明な部分が多い法隆寺裂の全体像(数量・技法・文様)についても作品調査と写真撮影によってデータベース化を図ることを目的としている。 研究機関の最終年度であった昨年度末の時点で、東京国立博物館が所蔵する法隆寺裂および正倉院裂の全点に対してスケール入りの写真撮影を終了し、技法ごとの分類作業を終了した。 その結果、これまで個別の断片として認識されていた作品の相互関係が理解できるようになり、今後の修理において作品の一具性を回復する基礎資料を揃えることができた。 東京国立博物館では昨年より奈良時代に製作された伎楽装束の「裳」に対して本格解体修理を行っている。この作品については伝来未詳の未整理品として扱われてきたが、本研究による分類作業を通じ、法隆寺伝来の上代裂のうちに、これと連結する作品が見いだされたため、法隆寺の伝来品と確定することができた(法隆寺献納宝物のうちには正倉院裂の混入品が多く認められ、その判別は従来困難であった)。 また多くの未整理品中から本来一具であった断片を見出し、修理に際して組み込むことができた。今後とも法隆寺に伝来した染織作品の修理を継続する上で、本研究の成果が活用され続けるものと考えている。
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