本研究は涅槃図の総合的研究という長期的視野に立ち、九州所在の仏涅槃図の調査を行い地方性の解明に挑む最終年度であった。本年度は3点の仏涅槃図の調査を行い、1本の発表を行った。 1)黒川等育による仏涅槃図:山口・妙徳寺所蔵の寛文5年(1665)の年紀がある仏涅槃図の調査を行った。雲谷等益の弟子であり、小倉藩の御用絵師になった黒川等育の作品で、小倉藩に召し抱えられる直前の作品であることが確認された。黒川等育については名前は知られていたものの作品が確認できなかった絵師であり、今回の発見により、黒川等育という絵師の作例が初めて知られることとなった。また本作品は等育が九州での修業を終えた直後の作品であり、黄檗絵画の影響がうかがわれた。この調査・研究成果については「小倉藩御用絵師 黒川等育の仏涅槃図」として紙面にて発表した。 2)仏涅槃図の調査(福岡・善導寺):久留米市善導寺にある仏涅槃図の調査。天明4年(1784)の制作で、木綿地に描かれた作品。 3)涅槃図の調査(福岡・妙徳寺):寛保元年(1741)に小倉藩のお抱え能役者である村上忠右ヱ門が自ら描き、自身の菩提寺である妙徳寺に寄進したもの。大画面に描かれた作品で、本業は能楽であるものの、村上忠右ヱ門の確実な絵画学習のあとが見受けられる作品であった。
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