平成28年度は、冷戦期の米ソにおける宇宙開発のテレビ・プロパガンダというテーマをさらに広げて、その起源として、アメリカにおける「明るい未来」をイメージさせるプロパガンダがいかにしてソ連に輸入されたか、という事例に取り組んだ。宇宙開発プロパガンダの主軸をなしていたのは有人宇宙飛行であり、これは「夢のような人類の未来」を実現する国家として、自国を演出するために最適な手段であったためであるが、このことは第一次大戦以降のアメリカとソ連において顕著に見られた、「幸福のプロパガンダ」と密接に関係していることがわかったためである。その結果、、アメリカにおける恐慌期のプロパガンダがソ連に与えた影響が大きかったことがわかり、これまで資本主義と共産主義という二つの陣営のそれぞれの枠内で別個に考えられていた「幸福のイメージ」というものが、実際には密接な影響関係のなかにあるということがわかった。 したがって、冷戦期に限定していた本研究テーマをさらに広げて、1920年代以降からのアメリカとソ連におけるプロパガンダ表象を比較することが重要であると考えるに至った。この研究テーマは、国内外においてまとまった研究としては成果がまだ出ていない、新しい視点であり、現代社会における「幸福なライフスタイル」のイメージがどのように構築されてきたかを考えるうえでも重要な課題と考えられる。 今年度は、国外での口頭発表3件(うち招待有り2件)、論文1本を発表したほか、本研究成果をモノグラフのかたちでまとめる作業を行っている(平成29年度に単著のかたちで刊行予定)。
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