研究課題/領域番号 |
26770066
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研究機関 | 東京藝術大学 |
研究代表者 |
松浦 昇 東京藝術大学, その他の研究科, 講師 (80640010)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2016-03-31
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キーワード | 浮世絵 / 陰影法 |
研究実績の概要 |
本研究は、浮世絵の一次資料調査および文献調査を通じて、浮世絵師と西洋画家との描画技法・思想の相違と、その背景にある日本独自の観察方法の獲得経緯を調査する基礎研究である。具体的には江戸中期~後期を中心にした浮世絵の資料収集と文献調査を行い、平行して浮世絵師が参考にしたと考えられる西洋画の資料調査を行う。これらの比較によりこれまで本格的に調査されて来なかった、日本における西洋陰影法の解釈と否定について実証を試みる。
本年度は、①江戸中期~後期を中心にした浮世絵の資料収集と文献調査として、浮世絵の影の表現を分析するために歌川国芳の絵を中心に、歌川広重、歌川派周辺、葛飾北斎、葛飾応為、葛飾派周辺の浮世絵の調査を行った。 ②浮世絵師が参考にしたと考えられる西洋画の資料収集と両者の比較を行った。先行研究によって歌川国芳が参考にしたとされている、ニューホフ著『東西海陸紀行』やフランス語版『 イソップ物語』等の図像と国芳の影の描画表現を比較し、西洋画技法をどのように浮世絵の陰影表現に取り入れたかを分析した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
本年度は、浮世絵における西洋陰影法の影響を調査するために、歌川国芳を中心に歌川派・葛飾派を対象として、文献調査や国内外のアーカイブが公開しているデータベース調査、研究者・専門家への聞き取りから資料調査を行った。この過程で、浮世絵における陰影表現の体系的な先行研究は行われていないことや、浮世絵師の西洋陰影法に対する思想についての調査が十分進んでいないことも浮かび上がってきた。 ①浮世絵資料調査1として、歌川国芳の浮世絵の中から影を描いた作品や、洋画を参考にした可能性のある作品を調査した。今後精査が必要であるが、150枚以上の国芳の浮世絵に西洋的な陰影表現が部分的に使われている事が確認できた。 ②浮世絵資料調査2として、歌川派・葛飾派の中から影を描いた作品や、洋画を参考にした可能性のある作品の調査を行った。歌川広重・国貞は控え目にであるが、西洋の陰影表現を使っていることが確認できた。葛飾北斎、葛飾応為の肉筆画における西洋陰影法表現はすでに指摘されてきたが、肉筆・浮世絵においていかなる表現技法を用いたのか調査した。 ③関連西洋画資料調査として、上記の調査から西洋画を参考にしたと思われる作品と、元になった思われる絵画の比較を行い、陰影表現と描画技法の相違について比較を行った。 また、同時代の円山応挙や秋田蘭画・司馬江漢など書画で扱われる西洋陰影表現についても、平行して調査を行っているため、浮世絵の陰影表現の調査にやや遅れが生じている。
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今後の研究の推進方策 |
今後は引き続き歌川国芳を中心に、西洋画と比較可能な浮世絵資料調査を行う。歌川国芳は、西洋版画の陰影表現のみならず、中国経由の陰影表現、書画に使われる隈の表現などを巧に組み合わせながら陰影表現を行っていると思われるが、それらを実証するための技法研究や思想背景のさらなる調査が必要である。また、浮世絵師が西洋画法や陰影法に言及した文献や、後年の記述も含めた文献も同時に調査し、江戸に中後期における陰影表現に対する思想についても考察を行う。これらの成果を元にして、映像研究科の紀要や関連学会への論文投稿を行う予定である。
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次年度使用額が生じた理由 |
次年度使用額が生じた理由としては、初年度のため文献のリスト化および文献調査・資料撮影に重点を置き、その後の浮世絵の図版と西洋画の比較に移るまでの時間が掛かったことから、旅費・人件費・謝金の支出が少なかった。
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次年度使用額の使用計画 |
本年度に引き続き浮世絵の一次資料調査と関連文献調査として使用する。浮世絵の高解像度の写真撮影および記録を行うために必要な機材を購入する。また、研究協力者への謝金、旅費への使用を見込んでいる。
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