研究課題
本研究「上演における参与者の感情と行為―90年代京都のエイズをめぐる社会運動を事例として」は、「上演」という経験を経ることにより、上演の参与者の感情がどのように変容し構造化されているのか明らかにすることを目的としている。本研究が依拠しているフィッシャー=リヒテの議論では、上演時に、パフォーマンス参与者にとって主体と客体、演者と観客、現実と芸術といった二項対立的な枠組みが崩れ、変容状態に入る。この変容ははじめに知覚や感情の変化といった身体的、生理的反応として現われるが、この変容状態も含めて「上演」とされる。平成26年度はエリカ・フィッシャー=リヒテの上演に関する理論を実証に耐えうるものにするための理論的検討、および予備調査を行った。文献の検討が主な研究方法となる。結果、フィッシャー=リヒテが論じる「上演」は対面的な相互作用が起こる場面に限られており、かつ人間の演者と観客がいる場合しか想定されていないため、今日の芸術やパフォーマンス状況に適合しない場合もあることが判明した。さらに、パフォーマンス時の変容を適切に捉えるためには社会科学の知見や手法が不可欠であることも確認できた。したがって本研究では、「上演」概念を以下のようなものとして、記述することを目指す。社会システム理論との接合により、人間ではない「演者」(例えばロボット)と観客との相互作用をも対象に含めることができる。さらに「上演」概念を対面的相互行為だけでなく、さらに時間的スパンを大きくしたイベントとして捉えることで、その間に生産された言説(インタビュー・批評)を含め、さらに「上演」を大きなダイナミズムとして捉えることとした。これらの措置により、上演の記録や観察、追試が困難であるといった難点を克服できる。さらに新しい演劇の形態のみならず、社会的イベント、アートプロジェクトも、「上演」の対象に含めることができる。
3: やや遅れている
平成26年度の目標達成度は85%ほどである。平成26年度の研究計画 1)エリカ・フィッシャー=リヒテの理論の検討はほぼ達成できたが、2)感情/情動に関する先行研究の検討・整理が当初の予定より進んでいない。社会システム理論や社会学の調査に予想以上に時間を取られたことが原因であると考えられる。この研究2)についても、平成27年度6月中には終わらせる予定とする。
[文献調査]感情社会学や文化研究における情動に関する研究資料・文献の検討[資料調査・インタビュー調査]研究対象のパフォーマンス・アート、芸術/文化的実践に関するDVD、批評、制作関連資料の分析。関係者へのインタビューの実施・分析
資料調査にRAを使用しなかったこと、インタビューテープ起こしを自ら行ったため、人件費が必要なかったこと、インタビュー調査に付随する謝金が必要でなかったこと大きな理由であると考えられる。しかし、本研究は、現在までのところ研究代表者が過去に行った調査内容によって、目的を果たすことができていたため、調査の進度には影響が出ない見通しである。
今後とくに、研究成果を広めるためのウェイブサイト、研究報告書、とくに海外での学会/国際会議発表に予算を投入することとする。さらにインタビュー(知識の供与)に対する謝金が増加する見込みであるので、使途は明確にあり、使用額を達成できると考える。
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演劇学論集
巻: 58 ページ: 73,89
図書新聞
巻: 3177 ページ: 8,8