本研究は、軽減税率と著作権に着目し、制度が創造へのインセンティブとなるような理論の構築を目的としてきた。 本年度は、日本の動向については新聞資料などで押さえつつ、主に1970年代から現在に至るまでのドイツ政府の政策に欧州統合が与えた影響についてベルリンで資料収集を行い、2016年までの動きについて必要な資料収集を終えた(連邦政府の文化政策が始まるのは公式には90年代後半だが、70年代から議論は存在し、部分的施策もあったことが聞き取りの過程で明らかとなり、70年代以降を対象とした)。並行して、昨年度までの研究・調査で残っていた論点について、研究者、専門家、関係官庁やNGOの担当者などに聞き取り、意見交換を行った。さらに著作権制度のアクチュアルな問題について、ビーレフェルトの研究者を招いた研究会を日本で行い、州の関係省内で専門家が議論している現時点未公開の資料なども提供してもらうことができ、今年度の調査研究は、この研究課題の最終段階として極めて有意義で実りの多いものとなった。 また文化財を念頭においてきた制度を舞台芸術に援用する際、上演とDVD化された映像作品を「芸術」と「商品」として分類する既存の理念的線引きは、鑑賞行動の個別化、グローバル化、デジタル化が一層進んだ現状と政策との乖離を起こす要因になるという仮説を立て、一定の評価が定まった複製作品を手始めに、制度見直しの余地がないか考察を進めている。本研究は、新たな制度構築への根拠とするために現状制度の限界を抽出することまでを目的としていたが、この複製と芸術の線引きの論点に対しては、国際会議で来日した中国の研究者たちから欧州の制度を客観視する視点を得ることができた為、今後の発展的研究に取り込みたい。 成果の一部は論文、国内学会、一般向け講演で発表し、国際会議についても来年度夏の依頼があり、予定している。出版も具体的準備を進めている。
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