映画・テレビにおけるハンセン病の歴史的表象を探る本研究に関して、平成28年度には日本映画学会で、「ハンセン病経験者の映画体験――映画を観ることと正すこと」というタイトルで口頭発表を行い、その成果をプロシーディングスとしてまとめ、インターネット上で広く一般に公開した。 以上の研究成果では、日本で製作されたハンセン病関連の映画で『小島の春』(1940年)や『ここに泉あり』(1955年)、『砂の器』(1974年)といった代表的作品を取り上げ、ハンセン病をめぐる描写がどのように歴史的に展開してきたのかについて詳しく考察した。また、松本清張原作の「砂の器」は、映画だけでなく何度もテレビ・ドラマ化がなされており、映画とテレビにおける表象の比較もおこなった。 ただ、こうした一連のハンセン病関連作品の制作は、演出家や製作スタッフの創造力のみによって達成されたわけではない。場合によっては、その対象となっているハンセン病経験者たちの声も、制作現場に届けられ影響を及ぼしてきた。それゆえ、当該作品の描写を歴史的に分析していくことで、各時代のハンセン病経験者たちと映画制作の間にある関係の変化も読み解くことができるのである。 隔離された状況で、ハンセン病経験者は映画を受容し、また映画を通して外部と接続してきた。初年度から調査を進めてきた各療養所が発行する機関紙を見ていくと、彼らが書いた映画批評が頻繁に掲載され、ハンセン病経験者は映画を重要な娯楽として位置付け、期待をかけていたことがうかがえる。こうした映画体験について詳しく見ながら、ハンセン病関連映画をめぐるハンセン病経験者と製作者の折衝を歴史的に論じていった。
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