平成28年度は、岩国徴古館、秋月郷土館、宗像高校、岐阜県図書館、東京大学史料編纂所、国立国会図書館において『関ヶ原軍記大成』の諸本および関連史料の調査を行った。 本研究では、平成26年度から3年に渡って、15の史料館等において『関ヶ原軍記大成』、および『関ヶ原軍記大全』の諸本の閲覧・撮影、および書誌情報等の検討を行ってきた。その結果、『関ヶ原軍記大成』の諸本は、大きく分けると二種類あり、また序文についても二種類存在することが確認された。 さらに、従来先行研究において1713(正徳三)年成立とされてきた『関ヶ原軍記大成』であるが、実はその後も増補改訂がなされており、1716(正徳六)年の序文のある『関ヶ原軍記大成』の存在、およびその内容から、最終的な成立は正徳六年と見て良いと考えられる。 本書については享保元年の段階において、板行を前提とした編集作業が進められていたことがわかっているが、なぜか刊本は確認されておらず、写本のみ残されている。報告者はこの事実について、『関ヶ原軍記大成』の内容が、享保年間に出された出版統制令で禁止されている徳川家に関することや「人々家筋先祖之事」に該当するためであると考えてきた。しかしながら、本書の成立が正徳六年ということになれば、著者宮川忍斎の死去(同年11月)、或いは、徳川家継の死去に伴う吉宗の将軍宣下(同年8月)の影響についても考慮する必要があろう。 以上は、本研究で明らかとなった内容の一部であるが、これらについては論稿の公表に向けて執筆を進め、また一般の市民を対象とした公開講座などにおいても研究の成果の一部を公開した。本研究により、『関ヶ原軍記大成』の書誌情報を含む、諸本の状況や引用史料の典拠などが明らかになったことから、今後はこれらの研究成果の公開をさらに進めつつ、フルテキストデータを前提とした量的な研究手法についても検討を行っていく予定である。
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