近世前期(特に貞享・元禄期から宝暦期まで)における、浮世草子に係わる江戸書肆の動向を確実に把握するため、当該時期に活動していたことが確認される複数の書肆について、先行研究を参照しつつ活動調査を行った。具体的には、松会三四郎、西村半兵衛、万屋清兵衛、鶴屋喜右衛門、西村理右衛門、川勝五郎右衛門、山口屋権兵衛、御簾屋又右衛門、須原屋茂兵衛、出雲寺四郎兵衛、近江屋久兵衛、平野屋吉兵衛等の出版書肆について、当該時期の刊記を有する出版物の調査を行い、これらを一覧として年表化した。 さらに、これらの出版物が江戸書肆単独の出版によるものか、他書肆と連名によって刊行された物であるかについても調査すると同時に、連名となる書肆の活動地域を把握し、上記の江戸書肆が、同時期に浮世草子を扱いつつ活動していた上方書肆と築いていたネットワークの具体的な様相について分析を進めている。 また、上記の調査を進める中で、宝永期から宝暦期にかけて、三都においてしばしば刊行された東海道・中山道に関する情報誌の出版状況及び内容に着目し、各書に盛り込まれる情報の出典ならびにその影響関係について考察した。その結果、内容的な特徴から、道中記には、重板・類板の危険性が宿命的につき纏うが、これを回避するために江戸書肆が採った方策についての知見を得た。 上記の調査と並行して、特に江戸において刊行された江戸板浮世草子についても内容面からの分析を進めつつある。
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