本研究は日本近世における小説を対象として、その作品内容と作品を著述した作家による考証や小説批評といった営為がどのように関連するのかを調査・検証したものである。 特に研究課題として取り上げた曲亭馬琴の小説『朝夷巡島記全伝』では、馬琴が考証随筆として出版した『烹雑の記』や『玄同放言』などに記された「ヒルコ」考証が、作品の全体構想に関わることを明らかにした。他にも、好華堂野亭の戦記「図会もの」に中国小説を絡める際に、作者の「義仲」批評が関係していると思しき記述も看取できた。 以上のように、作者による考証・批評に作品の根幹にも関わるものが見受けられることから、両者の関連はさらに研究すべきといえる。
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