本年度は、戦時下の出版団体、日本出版文化協会(のちの日本出版会)の機関紙『出版文化』の復刻版を入手し、戦時下の『出版年鑑』と『雑誌年鑑』(1939年~1942年版)および『日本読書新聞』や新聞記事などの関連資料と併せて、戦時下の出版社の動向や出版政策などの全体像についての理解を深めた。 また旺文社発行の『新若人』については、これまで所蔵している分の欠号の入手に引き続き努めたほか、その読者投稿欄についても選者や投稿者についての分析を行った。具体的な雑誌分析については、陸軍と講談社の協力関係の下、1944年に設立された日本報道社(戦後は光文社へと変更)に注目し、同社が1944年9月から1945年3月号まで発行した雑誌『征旗』全号について、現物による書誌的分析を行い、誌面本文を元にした総目次を作成した。この総目次には関連事項の調査に基づいた詳細な注を付し、時代背景や人物情報などを補うことで、読める書誌としての意味を持たせることができた。また誌面の内容分析を行い、その誌面に影響する陸軍報道部、大日本言論報国会、大東研究所といった各種の力関係を考察し、この時代における雑誌の意味の考察やその位置づけを行った。 日本報道社については、同社が刊行した書籍、また前身となった出版社についても情報、資料収集を行っており、講談社を中心にした総力戦体制下におけるメディア編成について、より多角的な考察を行うための足がかりを得たものと考えている。
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