大きな成果としては、これまでほとんど注目されていなかったものの、戦時下において一定の役割を果たした、日本報道社と山海堂について、その刊行した雑誌を中心に調査を進め、日本報道社が刊行した雑誌『征旗』、山海堂が刊行した雑誌『報道』について、その収集を行うとともに、その詳細な書誌を作成したことが挙げられる。特に完全な所蔵機関のない『報道』については、そこに深く関わった大東研究所、および大熊武雄という人物の軌跡とともに基礎的な資料を提供することができた。 このことは戦時体制下における出版社やジャーナリストの動向とともに、そのメディア編成について、より多角的な考察を行うための足がかりとなり、実際の戦争プロパガンダとされる雑誌メディアの実態を明らかにした。 また『征旗』『報道』にも執筆した火野葦平について、最新の研究動向についてまとめたほか、『婦女界』という女性雑誌の戦前から前後にかけての展開を、深く関わった菊池寛と関係から通時的に見て、戦時下の女性雑誌の展開について考察することができた。 研究論文の形では発表できなかったが、旺文社発行の『新若人』については、これまで所蔵している分の欠号の入手に引き続き努めたほか、その読者投稿欄についても選者や投稿者についての分析を行った。このほかに村雨退二郎の関係資料の収集分析を進め、戦時下の大衆文学の動向の調査考察を行い、いわゆる有名出版社ではない多くの群小出版社の存在について改めて意識することができ、今後の研究への足がかりができた。
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