研究課題/領域番号 |
26770094
|
研究機関 | 近畿大学 |
研究代表者 |
大澤 聡 近畿大学, 文芸学部, 講師 (30712591)
|
研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2017-03-31
|
キーワード | メディア / ジャーナリズム / 批評 / 論壇 / 文壇 / アーカイブ / ネットワーク / 総合雑誌 |
研究実績の概要 |
戦前のジャーナリズムにおいて醸成された編集知やインフラが戦後の日本や同時代の東アジアにどう応用されていったのかを実証的に検証するための準備を進めた。具体的な作業と成果は以下に示すとおり。 1.戦前/戦後の総合雑誌の編集スタイルに関する分析を行なうことで、連続性を明らかにした。戦前に関しては、著書『批評メディア論』を発表し体系的枠組や構造的限界を示した。時評や座談会、人物批評などの記事ジャンルが俎上にのせられた。併せて、編著『戦前期「論壇時評」集成』も資料として発表した。戦後に関しては、70年代の総合誌『流動』の調査を進め、論文「新左翼系総会屋雑誌と対抗的言論空間」(『日本の論壇雑誌』)にまとめた。 2.言論をとりまくシステム全般に関する分析も進めた。論文「アカデミズム、ジャーナリズム、ディレッタンティズム」(『現代思想』)では、丸山真男の履歴を大学と出版界の布置連関から再整理することで、戦前と戦後のジャーナリズム観の連続性を再考した。言論や文学の空間を全体性において捉え返す営為の必要性が戦前に提起されたこととも連動している。論文「批評の全体性について」(『すばる』)で検討した。 3.個別テクストの分析も行なった。論文「保田與重郎と伊東静雄」(『近代日本政治思想史』)では、日本浪曼派の理念形成をメディア上の相互交渉から炙り出した。思想家や文学者のあいだに観測される間接的な影響関係やネットワーク構築について「集団」というキーワードのもと戦後の資料の蒐集につとめた。次年度以降に論文化される。 4.以上と平行して、現代のジャーナリズム状況を批評する文章も随時発表した。連載「アーカイブ」(『出版ニュース』)など。歴史調査を現代の諸問題に接続した際に見える可能性を展開することで議論を立体化させ、一般的な理解を得られるようアウトリーチを心がけた。各新聞のインタビューやコラムに応えながら展開した。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
当初計画していた作業をひとつひとつ進めていったほか、そこから派生した課題であるアカデミズムとジャーナリズムの布置連関に関する分析も進め、双方の知見が接合された。また、平行して現在の言論環境への批評も積極的に同時に行なった。そのことにより、歴史研究に留まらない立体化が実現し、次の歴史研究への展開が見通しやすくなった。
|
今後の研究の推進方策 |
1年目に収集した資料群を駆使しながら、また新たに資料蒐集を進めながら、戦前/戦後の日本の言論空間に観察された各所のネットワークに関する検証へと進む。具体的には、唯物論研究会や昭和研究会、明治文化研究会など各種研究会、および漱石門下や硯友社、京都学派など各種グループの実態調査と理論的解析を行なう。ここでのキーワードは「集団」である。1年目の研究で明らかとなった戦前期日本の文壇・論壇ジャーナリズムの見取図と、そこに通底していた「速度」と「綜合」というモチーフをこの集団分析に縫合することによって、言論空間の総体的な把捉を目指す。メディアや直接交流を通じて言論の磁場が集団的に形成されていくプロセスを精緻に描出することで、現在の言論動向にいかに応用しうるかも並行して検証していく。
|
次年度使用額が生じた理由 |
当初の計画に含まれていた韓国での資料調査に着手できなかったため、その旅費分などを次年度使用額に回すこととなった。
|
次年度使用額の使用計画 |
韓国での資料調査を実施し、その出張費に充当する。
|