研究課題/領域番号 |
26770094
|
研究機関 | 近畿大学 |
研究代表者 |
大澤 聡 近畿大学, 文芸学部, 准教授 (30712591)
|
研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2018-03-31
|
キーワード | 綜合雑誌 / 論壇 / 文壇 / 教養 / 対話 / ネットワーク / アーカイブ / ジャーナリズム |
研究実績の概要 |
戦前/戦後の日本、ひいては東アジア全域のジャーナリズム空間において連鎖的に醸成された出版インフラや編集技法の経時的な変遷過程を実証と理論の両面から跡づける調査を引き続き進めた。具体的な作業と成果は以下に示すとおりである。 【1】日本の文壇を明治期から現代にかけて通史的に分析した特集「文壇のアルケオロジー」(『文学』5・6月号)の企画立案から編集まですべてを担当し、うち2つの対談「研究と文壇」「批評と文壇」に出席した。これまで正面から手を付けられていなかったシステムとしての文学場について多角的な検証を行なった。 【2】言論システムにのるかたちで編成される人的ネットワークの構造をあきらかにするための準備として、「対話」をキーワードに論考「新たな対話論のためのメモランダム」(『精神看護』1月号)のほか、連載「対話するいきもの」(『kotoba』)などを発表した。それらでは、「対話」概念をインフラ分析と接続するための方法論の一端も示されている。 【3】また、1930年代をとおして論壇で盛んに議論された「教養」について資料整理をおこなう過程で、代表的な論者である三木清の教養論を収集し、セレクトしたものを『三木清教養論集』(講談社)として刊行した。解説文をとおして思想家としての三木清のキャリアについても一部整理した。 【4】以上の各種作業と平行して、現代のジャーナリズム状況を分析・批評する文章も随時発表した。連載「アーカイブ」(『出版ニュース』)および、連載「ネット社会時評」(共同通信配信)などがそれである。また、文学の状況分析として、「Re:機能性文学論」(『atプラス』第28号)も発表した。歴史調査を現代の諸問題に接続した際に見えてくる可能性について、一般的な理解を得られるようアウトリーチに勤めた。そのほか、各種新聞のインタビューやコラムに応えることでも展開した。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
計画していた個別の資料取集や成果発表を着実に1つ1つ進めていったものの、家庭環境の大きな変化もあって海外への資料調査の日程などがスケジュール上うまく確保できず、進捗に遅れが出た。そのため、期間の延長願を申請した。成果としては、これまでの戦前期日本に比重をおいた自分の分析を相対化すべく、中国と朝鮮半島での1930年代のメディア環境を伝える諸資料を収集することに成功した。とはいうものの、資料群はいまのところ日本語で読めるものに限定されている。そのため、よりアクセスするアーカイブを広げる必要がある。その点は来年度の課題として申し送る。また、前年度までと同様、平行して現在の言論環境や創作現場への批評も積極的に行なった。そのことによって、歴史研究の枠に留まらず多角的な視野を確保することが可能となった。
|
今後の研究の推進方策 |
アジア圏の資料収集を中心に行なう。あわせて、1年目から3年目にかけて収集した資料群を活用することにより、同時代の東アジアのメディア・ネットワークのなかで特定の思想テクストを捉えかえすこと、そして、戦前/戦後日本のジャーナリズムの連続と断絶とを見据えながらその効果を測定することをめぐる理論的な体系を構築する。その際のキーワードは「集団」に加えて「対話」である。これらの点に重点をおいて研究を進めていく。 また、これまでの調査の過程で浮上した「教養」概念もあわせて理論的な支柱に設定する。1930年代は空前の「教養(論)」ブームであったわけだが、当時膨大に発表された関連記事を読み込み、タイプ別に分類する。その作業をとおして、日本の言論空間におけるいわゆる「教養文化」の意義と系譜を再検証する。 戦争状況の深刻化と相即するように変化していく教養概念を精緻に測定することがここでの目標である。最終的に、アジア圏全域におけるメディア環境の再編成と接続することにより、将来的な展望へとつなぐ。
|
次年度使用額が生じた理由 |
延期の申請理由に詳細に書いたとおり、家庭環境の変化により、当初計画していた在外出張を実施することが日程的に不可能となったため、その分を次年度使用額に回すこととなった。中国および韓国におけるメディア環境を日本の状況とつきあわせるための資料収集である。
|
次年度使用額の使用計画 |
(1)戦前期日本の出版状況に精通する人物の招聘を実施し、専門的知識の提供を受ける。 (2)遂行されなかった中国および韓国での資料収集調査を実施する。
|