最終年度の成果を分類すると以下の5系統になる。 【1】1920年代から40年代に、講座や新書、全書、思想誌など新たな言論インフラの創出に大きく貢献した三木清の資料調査を進めた。今年度は三木が岩波書店に宛てた大量の未公開書簡の現物を解析し、連載「編集する三木清」(『図書』)で紹介と解説を行なった。これで言論場の生成過程が追跡可能となった。 【2】言論メディアへの人材供給源でもあった大学や文壇の1920-50年代の動向を調査した。一環として三木の関連言説を整理し、『三木清大学論集』『三木清文芸批評集』(講談社)として刊行。解説文をとおして、三木と周囲の人物たちとの対話関係も炙り出せた。アジアとの関係などコンテクストも見えてきた。 【3】当時の出版産業の基盤にある教養主義の歴史に関する資料収集も進めた。並行して、当該テーマの第一人者たる研究者3名と討議し、記録を『教養主義のリハビリテーション』(筑摩書房)としてまとめた。新資料紹介を含む「編集と教養」(『群像』)、「邂逅と教養」(『本』)も発表した。 【4】1940年代から50年代の出版界の再編状況を調査した。美作太郎が残した当時の手記やメモ、関係資料を入手し順次解析を進めた。この作業により戦時の出版体制と戦後のそれとの連続/断絶の諸相が浮かびあがった。これまで不明要素を含んでいた著作家組合など関連団体の背景も明らかになりつつある。成果公開を急ぐ。 【5】以上のほか、現代のメディア環境を分析する文章も随時発表した。連載「ネット社会時評」(共同通信)、「読書の消滅」(『世界思想』)などがそれに該当する。『1990年代論』(河出書房新社)も刊行した。いずれも歴史研究の成果を現代に接続することで、調査の意義を検証する試みでもある。また、各種媒体のインタビューや対談やコラムに応じるなど、専門的知見を一般的な理解へとひらくアウトリーチ活動を心がけた。
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