研究課題/領域番号 |
26770095
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研究機関 | 九州産業大学 |
研究代表者 |
天野 聡一 九州産業大学, 国際文化学部, 准教授 (50596418)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | 懐徳堂 / 和学 / 国学 / 五井蘭洲 / 伊勢物語 / 源氏物語 / 擬古物語 / 和文小説 |
研究実績の概要 |
「五井蘭洲の和学とその受容」について、三年度にあたる平成28年度は、過去二年間の反省を踏まえ、これまでに行った研究における問題点(視点領域・方法論の限界性など)の抽出と、それに対する打開策(作業の合理化、先行研究・周辺分野の研究に対する目配り、他の研究者との討議など)を模索した。その上で、さらに調査・分析を続行した。以下、順を追って説明する。 本年度の主な分析対象は、五井蘭洲の伊勢物語注釈書『勢語通』、上田秋成の「吉備津の釜」の2点である。 1点目の『勢語通』は、昨年度からの継続調査である。三種ある『勢語通』、二種ある上田秋成の伊勢物語注釈書、それに契沖の『勢語臆断』の計六種類の注釈書を、『伊勢物語』の章段に沿って、一段一段、詳しく比較検証を行った。この作業は当初の想定以上に時間がかかり、未だに完了できていないが、仮説段階ではあるものの、これまで未指摘だった新たな見解を得ることができた。年度途中から比較作業の整理をノートからエクセルに変更することで作業のスピードが上がったので、この方法論をとりながら来年度中の論文化を目指す。 2点目の「吉備津の釜」は、今年度新たに取り組んだ作品である。当初秋成については古典注釈のみを研究対象と想定していたが、昨年度までの研究から、景範のみならず、秋成の創作作品についても分析する必要性を感じたためである。そこで、秋成の小説創作と古典注釈の関係を具体的に分析するべく、作中の文辞の典拠を考証し、そこにどのような古典とのつながりがあるのかを確認した。特に、和歌や源氏物語を作中に摂取していることを確認できたことは、蘭洲の和学との関係を考える上でも意義深いものであった。本研究はすでに論文にまとめて発表した。 以上の通り、研究課題について、その問題の一端を明らかにし、来年度以降の道筋をつけることが出来た。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
資料の収集、分析、および論文化については予定通りの進捗状況である。 『勢語通』の比較作業については、「研究実績の概要」に記したように、当初の想定よりも時間がかかっているが、分析方法を変更したことによってその問題は解消された。 また、「吉備津の釜」の分析については、年度内に研究の成果をまとめることができ、学会においても一定の評価を得ることができた。 以上の理由から、全体として、おおむね順調に進展しているとみなすことができる。
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今後の研究の推進方策 |
昨年度に引き続き、蘭洲の著作を多く所蔵する大阪府立中之島図書館や大阪大学附属図書館懐徳堂文庫を重点的に調査してゆく。また、上記図書館以外の所蔵機関についても調査の対象とし、一次資料を網羅的に蒐集する。 また、蘭洲を含む上方和学を相対化するべく、同時代の江戸における和学の動向(特に和文小説)について分析を進めてゆく。 なお、研究の過程で得られた有益なインターネット上の情報は、随時ホームページにて公開してゆく(日本文学 Internet Guide)。
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次年度使用額が生じた理由 |
必要な文具が品切れのため、購入を見送ったためである。
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次年度使用額の使用計画 |
繰り越し金額については、研究の進捗状況に鑑みて適切に使用してゆく。
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