本課題研究が得た主な成果は以下2点に関するものである。1点目は五井蘭洲の和学である。蘭洲が著した『勢語通』は、伊勢物語が業平の自記に伊勢が追記したものとしており、この見解は初稿本から最終稿本まで一貫している。この立場は『闕疑抄』に基づき、『古意』とは鋭く対立するものである。2点目は蘭洲が加藤景範・上田秋成に与えた影響である。景範は蘭洲が著したと目される『続落久保物語』の後に位置づけられるべき『いつのよがたり』という作品を著しており、作中には蘭洲の思想が色濃く反映されている。一方、秋成は伊勢物語注釈において前述した蘭洲の立場とは異なる見解を示しているなど、一概に蘭洲の和学を吸収したとは言えない。
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