本研究課題ではロマン派期ウォルター・スコットとジェイムズ・ホッグによる妖精の造型法と用法例を多数収集、検証し、両者の妖精譚の一見懐古的な様相の背後に隠された先鋭的な同時代性、実験性、独創性を確認した。両者による土着の口承伝統を巡る論考や、詩や小説で描出される妖精は、両者が眼前の同時代の現実世界に鋭く向けた眼差しの体現であり、啓蒙主義が開花した一大拠点でありつつロマン派期文芸の独特な展開をみたスコットランドにおける両潮流のせめぎ合いの顕現であり、同時代の現実世界におけるスコットランドの位置を模索する手がかりとして口承伝統と古典叙事詩の借用を折衷し行われた神話創造の試みであり、さらに両者の創作上の美学に密接に関連し、意図的に選択された表現様式であるという当初立てた仮説の裏付けを得ることができた。 国内外の先行研究にはヴィクトリア朝期妖精譚や通史的な英国幽霊譚研究は多数存在するが、より捉えがたく複雑性に富むロマン派期妖精譚を扱う先行研究は、民話研究の分野では存在するものの、文学研究の領域では少ない。この為、本プロジェクトはこの空隙を埋める作業に貢献したという評価は可能であろう。 2017年度は過去3年間に収集した資料の分析を継続し論文執筆を進めた。作業の過程で両者の妖精表象には当初の予想以上の拡がり、先行する時代の文学作品や同時代言説との複雑な関連があることが判明した為、読解分析に時間を要し、期間内に論文を完成することはできなかった。論文執筆作業は継続し完成を目指す。 本プロジェクトの直接的な成果は学会発表1篇である。関連してロマン派以降の妖精譚の展開の考察も試み、以下について研究発表を1篇ずつ行った(1)ヴィクトリア朝期妖精譚(サッカレーとディケンズの比較)(2)20世紀児童・幻想文学(ノートン作品群)。また公開講演3回、オープンキャンパスでの企画展示(共同企画)を4回行った。
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